ジャストシステムは、一太郎の根底をなすものを「顧客目標を達成するための身近なツール」(ジャストシステム CPS事業部 開発部 エキスパート 佐々木孝治氏)だと定義している。利用者やSNSなど多数のチャネルから情報収集し、顧客の利用シーンを細かく分析してきたが、最新版となる一太郎2018は利用者の大半が行う「出力」に注目して、関連機能の実装に注力した。
一太郎2018上で作成した文書を印刷することを前提に、中とじ本や折り本といった冊子作成や、印刷所への入稿方法をメニューから操作する「アウトプットナビ」を新たに搭載。用紙を折って中央を留める中とじ本や、1枚の用紙を折る・切る折り本は、小規模な範囲に配布する冊子作成に向いている。また、個人入稿可能な印刷所への入稿データ生成機能も備えるため、中規模で配布する冊子作成も可能だ。従来どおりPDF形式などの出力機能も備えており、利用者のゴールを出力と捉えた機能実装はいずれも興味深い。
出力品質にも多数の改善を加えている。例えば縦組みレイアウトでは、見開き両面印刷時の本文行位置、傍点や縦組み引用符も正しく印刷可能になった。メニューからイメージを選んで選択すると目次を生成する「目次ギャラリー」では、デザインを160点に増やしつつ、ページ番号の位置や縦横中・漢数字の位置を正しく表示可能にしている。
小説執筆向けには、閉じ鉤括弧を入力すると自動改行して自動的に字下げする「入力アシスト」を備えるなど、新規・改良機能の数は多い。ここまで来るとDTPアプリケーションのようだが、ジャストシステムが出力にこだわった結果は、印刷物に携わるすべての利用者に恩恵となるはずだ。
個人的には、頻出語チェックが可能になった文章校正機能に興味をひかれた。指定した文章範囲に現れる語句をチェックし、許容する品詞を選択・除外することで、日本語文章の品質向上を目指すという機能だ。ほかにも、擬音語・擬態語の指摘をほどよく抑制する機能改善が加わるなど、プロの執筆業はもちろん、ブログで長文を書く個人利用者の目をひく機能が多い。このあたりはレビューする機会があれば、追ってご報告したい。
一太郎2018の種類は、「一太郎2018」「一太郎2018 プレミアム」「一太郎2018 スーパープレミアム」の3エディションを用意するが、プレミアム版では、イワタ書体から厳選した8書体と「広辞苑第七版 for ATOK」を搭載。読み上げソフト「詠太8」は音声エンジンを刷新し、会話文と地の文を読み分ける機能に対応する。グラフィックソフト「花子2018」は、表現力を高める文字アートや表紙原稿作成機能をサポートし、Adobe Photoshop形式の出力にも対応した。
2年ぶりのバージョンアップとなるメールソフト「Shuriken 2018」は、メールの添付ファイルにインターネットからダウンロードしたファイルであることを示すZone IDを付与し、標的型攻撃メールのリスクを減らす。SHA-2やAESといった暗号化技術にも対応することで、S/MIMEのセキュリティも向上させている。また、高DPI表示への対応も図った。
スーパープレミアム版には、2008年から2017年まで刊行した10冊の国際年鑑を利用できる「ブリタニカ国際年鑑 一太郎2018版」と、美術館や博物館などの学術機関が保有する画像を300万点収録した「Britannica ImageQuest」の1年間利用権が付属。ジャストシステムは、「(ブリタニカ国際年鑑の)約6,700ページにおよぶデータは、テキスト形式でコピー&ペーストできるため、レポート作成などに活用してほしい」(佐々木氏)と述べ、スーパープレミアム版の利点をアピールした。
今回の発表会におけるトピックでは、最新版ATOKのサブスクリプション化が目立つ。最新版ATOK自体は目を見張る新機能は少なく、ATOKディープコレクトの効果も現時点で未知数だ。一方で一太郎2018は、本稿で取り上げきれない機能改善が加わった。ジャストシステムが一太郎2018のテーマに掲げた「出力」も功を奏している。ワープロソフト市場はMicrosoft Wordが席巻しているものの、一太郎2018が持つ独自の魅力と存在感は健在だ。
阿久津良和(Cactus)