2018年2月9日に平昌(ピョンチャン)五輪が開幕する。その空の玄関となる仁川国際空港は今、混雑時には出国手続きに1時間以上かかることも起きている飽和状態だ。そんな中、平昌五輪の成功と"アジアのハブ"の威信をかけた仁川空港第3段階事業が、2018年1月18日に「第2ターミナル」開業で完結する。
第4段階事業を経て世界初の空港へ
仁川空港は日々増加する航空需要への対応と東北アジアのハブ空港を目標に、2001年3月に開港した。2016年の実績では、国際旅客取扱数は5,770万人で世界7位、国際貨物取扱量は270万tで世界2位を誇る。なお、空港内免税店の売上高は世界一となっている。2017年における仁川空港の旅客数は、旅客処理能力を超えた6,200万人以上が見込まれており、空港の拡張が課題となっていた。
仁川空港の歩みを振り返ると、第1段階事業(1992年11月~2001年3月、費用56億ドル)では、第1旅客ターミナル(49万6,000平方メートル)と2本の滑走路(3,750m×60m)と貨物ターミナル(12万9,000平方メートル)を建設。第2段階事業(2002年1月~2008年5月、費用29億ドル)では、旅客ターミナル(16万6,000平方メートル)と滑走路(4,000m×60m)と貨物ターミナル(12万9,000平方メートル)が増設された。
今回の第3段階事業(2012年~2018年1月、22億ドル)で、地下2階・地上5階からなる第2旅客ターミナル(38万4,000平方メートル)が開業する。第2ターミナルの運用でエプロンは170カ所まで増加され、年間旅客処理能力は現在の5,400万人から7,200万人に、貨物処理能力は450万tから580万tに拡張する。さらに、第4段階事業(2018年~2023年、費用未定)にて滑走路(3,750m×60m)を増設することで、世界で初めて年間旅客数1億人を突破する空港を目指す。
アジアのハブ空港を見てみると、10月31日にはシンガポール・チャンギ国際空港の第4ターミナルが開業した。同空港の第4ターミナルの旅客収容能力は年間1,600万人で、空港全体では8,200万人を見越している。また、2019年には北京に新空港が開業予定、成田・羽田も2020年の東京五輪に向けて拡張が計画されており、香港も第3滑走路の計画があがっている。そうした中で、より競争力のある空港を目指し、世界中の空港の視察を重ねながら、最先端をいく技術を詰め込んだのが今回の第2ターミナルとなる。
第2ターミナルには、スカイチーム加盟航空会社である大韓航空/デルタ航空/エールフランス/KLMオランダ航空の4社が乗り入れる。第1ターミナルにはアシアナ航空/チェジュ航空/スターアライアンス加盟航空会社が、第1・2の間にある搭乗棟(コンコース)にはスカイチーム加盟航空会社/LCCが、それぞれ乗り入れる。空港と都市をつなぐ空港高速道路と高速鉄道(KTX)は、第2ターミナルの開業にあわせて延長され、空港と都市をシームレスにつなぐ。
出入国を全て無人化することも
では、第2ターミナルにはどのような技術を搭載し、どのような構造になっているのか。第2ターミナルは「グリーン・エアポート」「エコ・エアポート」「スマート・エアポート」をメインコンセプトとしており、その様子は屋根全体をソーラーパネルにした外観からもうかがい知れる。
「エコ・エアポート」として太陽・地熱などのクリーンエネルギーを積極活用するほか、天井や壁面から地下1階から3階まで吹き抜けになったターミナル内に自然光が降り注ぐことで、第1ターミナルに比べて40%の省エネルギーを達成した。こうした開放的な空間設計は、利用者にとっても心地よい空間になることを目指している。
ターミナル内には至る所に樹木が設けられている。これは「グリーン・エアポート」を具現化したもので、本物の木を用いている。樹木の種類によっては室内設置ができないものもあったようだが、それでも樹皮は本物で葉がフェイクになっているなど、まるで公園の中にいるような癒やしの空間になることを狙っている。
「スマート・エアポート」は、随所に最新ICT(Information and Communication Technology)を多用することで、入国は20分、出国は29分59秒で完了する環境を整えた。実際、18歳以上の韓国籍の人であれば、出入国を全て「無人化」することも可能だ。
最新ICTを導入するほかにも、荷物カウンターの段差を30cmから10cmに下げる、待ち合わせでの時間ロスをなくすためにあえて出入国ゲートを4つから2つに減らす、コンセントやUSBポートの充電スポットをなくして各所のイスの下に設置する、カートを操作性に優れた軽量タイプに刷新するなど、利用者目線での快適性にこだわったサービスを随所に展開している。
さらに、スマートフォンと連動し、空港内の場所に応じて様々な情報を提供する「ロケーションベースサービス」を展開する。出発ゲート付近に接近すると、搭乗券やラウンジの場所、搭乗時刻などの情報が自動的に表示され、位置に応じた設備の案内など、一人ひとりに応じたカスタマイズサービスも可能となっている。
運航に関しても、韓国初となるMARS(Multi Aircraft Ramping System)を導入し、円滑な運航管理を可能にする。MARSゲートは大型機(E、F級)の駐機空間に2台の小型機(C級)を独立して動作が可能になるように配置するシステムで、航空機の混雑時間帯に円滑な運航管理を行い、定時運航率を向上させる。
20分で入国を完了させるために
実際に空港を利用する目線で、それぞれのサービスを紹介していこう。まず、仁川空港に到着し、入国する。仁川空港の搭乗口のナンバーは、1~50が第1ターミナル、101~150がコンコース、201~250が第2ターミナルとなっている。各所にはターミナルマップや乗継案内のタッチパネル式のデジタルサイネージが設けられており、搭乗券をスキャンすれば乗継情報を表示をしてくれる。もちろん、日本語にも対応している。
入国審査において、韓国籍の人が使用できる自動入国審査機を多く設置し、有人審査口のほとんどを外国籍の人専用にすることで、トータルでの時間短縮を図る。受託手荷物受取所では、機内という限られた空間で疲れた人によりくつろぎを提供できるよう、できるだけ天井を高くして開放感のある空間に設えた。
また、荷物のレーンにも工夫がある。世界中のほとんどの空港では、荷物がレーンの端から出てくるようになっているが、第2ターミナルではあえて横の中心から荷物が出るようにしている。これは、狭い端に人が集中することでの安全面への配慮や圧迫感のないような環境になるようにという配慮だ。また、既存の荷物が落ちる構造ではなく、上方コンベア式の構造により、荷物の破損リスクを軽減する。
レーン上でX線検査をし、もし何か反応があった場合は、奥の開封検査場に通されることになるが、特に何もなければそのまま入国となる。入国審査から受託手荷物受取、税関検査まで、全て20分で終わらせることを目標としている。
最長でも20分以内で乗継できる構造
第2ターミナルの運用に関して、特に工夫したのがスムーズな乗継だ。第1ターミナル/コンコース/第2ターミナルは、5分おきに運行されるスターライン(シャトルトレイン)でつながっており、各エリア間は5分でつなぐ。ミニマムコネクションタイムとして、同じターミナルなら45分、第2ターミナルからコンコースへは70分、第2ターミナルから第1ターミナルまでは110分に設定しているものの、実際は同じ第2ターミナル内なら、最長でも20分以内で乗継が可能になっている。
視覚的にも分かりやすいよう、乗継案内は全て緑で表記されている。それぞれのポイント前には、搭乗券をかざして通れるセキュリティーチェックポイントが設けられており、誤って目的の搭乗口とは違うエリアに向かってしまうリスクを軽減する。乗り継ぎ便の搭乗券が未発行の場合は、自動発行機のほか、大韓航空と同航空とジョイントベンチャーしているデルタ航空専用の有人カウンターで対応。よりスムーズな乗継を可能にする。
29分59秒で出国を完了させるために
現状では混雑時に1時間以上かかることもある出国に関しては、チェックインから保安検査、出国審査までを29分59秒で完結できるように工夫されている。第2ターミナルには、大韓航空/デルタ航空/エールフランス/KLMオランダ航空の4社が乗り入れており、出発フロアは3階となる。
それぞれのチェックインカウンターのブロックは、第1ターミナルの8つから6つへと減らし、長さは1.5倍拡張している。開放的な空間のために広さは必要であるものの、その分、歩く距離も増えるというデメリットが生じる。その意味で、利用者目線で使いやすさを考慮した結果の広さと配置が、この第2ターミナルの構造だ。
また、第1ターミナルにもセルフチェックインとセルフバックドロップを導入しているが、第2ターミナルでは第1ターミナル比較で、セルフチェックインは約1.8倍、セルフバックドロップは約8倍設ける。
第1ターミナルを利用した際、チェックイン待ちの長蛇の列ができていたが、受託手荷物がなかったためセルフチェックインを利用したところ、全く並ぶことなくチェックインができた。このセルフサービスを拡大できれば、かなりスムーズな手続きなることは容易に想像できる。また、公演などを行う文化空間は第1ターミナルにもあるものの、第2ターミナルでは側に席が設けられているので、スキマ時間によりくつろぎながら公演を楽しむことができる。
保安検査に関して、従来の金属探知機はX線を使っていたが、第2ターミナルでは羽田空港にも一部導入されている超音波タイプの探知機を使用。金属検査のほか液体検査もでき、また、人の輪郭を表示しないためプライバシー保護にもつながる。全行程は15秒で完了するため、従来よりも時間短縮が可能。保安検査の空間そのものが広くとられているのは、スムーズさとともに圧迫を感じさせないことも狙っている。
出国手続きは、18歳以上の韓国籍の人は事前登録なしで自動出国が可能であり、有人窓口はその分、外国籍の人専用を多く設けている。また、窓口も第1ターミナルでは利用者が斜めになるような導線だったが、第2ターミナルではスムーズな移動を狙って正面になっているのもポイントだ。
続いては、制限エリアと地下1階に広がるレストラン&バスターミナルエリアを紹介する。