一般消費者が受ける恩恵はほとんどない?

あえて、IIJのフルMVNO化が個人向けサービスに生み出すメリットを挙げるとすれば、それは訪日外国人向けのサービスになりそうだ。IIJは来年3月のフルMVNOによるサービスの1つとして、訪日外国人向けのプリペイドSIM「Japan Travel SIM」を、現状のNTTドコモのMVNOとして提供するSIMから、自社発行のSIMへと置き換えていくとしている。

その理由は、SIMを借りていることに起因するという。現在のJapan Travel SIMはNTTドコモからSIMを借りて提供しているが、未使用状態でも1枚当たり毎月100円前後の維持費をNTTドコモに支払う必要があるのだという。それゆえ店頭在庫を増やすと増やしただけ維持費がかかるため、販路を広げるのが難しいのだそうだ。

だが自社発行のSIMであれば、どれだけ店頭に在庫を置いても維持費はゼロ円で済むことから、販路を大きく広げやすくなるのだそうだ。自社でSIMを発行・管理することにより、サービスだけでなく販売の自由度も高められるというメリットが生まれるようだ。

また将来的にはフルMVNOのメリットを生かし、アウトバウンド向けSIMの提供も期待できるかもしれない。現在IIJはNTTドコモからSIMを借りている立場であり、国際ローミングサービスもキャリアが提供するものを使う以外に選択肢がなかった。だがフルMVNOになれば、海外での接続先もIIJが自由に選べることから、より安価なサービスと接続することで、従来より安い海外向けデータ通信サービス提供も可能になる。

同社は現在、同種のサービスとして「IIJmio海外トラベルSIM」を提供しているが、フルMVNO化によって、海外でのデータ通信をより安価に利用できるサービスが登場する可能性は十分考えられよう。IIJ側では現在のところそうしたSIMを提供する計画はないとしているが、今後に期待が持てるところだ。

確かに今回のフルMVNO化は、国内の一般消費者に直接恩恵を与えることはほぼないと言い切ってよいだろう。だがコンシューマー向け機器にeSIMの搭載が進むことにより、目に見えない形でその恩恵を受ける可能性は今後増えてくるだろう。またIIJのフルMVNOによる事業が拡大していけば、個人向けサービスに向けた展開、ひいては音声のフルMVNO化により積極的に取り組む可能性も出てくるかもしれない。