第四話「渦、揺れる船上」
村上海賊が去ったあとは、いよいよ海峡急流へ。ガイドさんによると、この来島海峡は鳴門海峡・関門海峡に並ぶ日本三大急潮流のひとつとのこと。しかも、古くから"一に来島、二に鳴門、三とさがって馬関瀬戸(関門)"とうたわれ、3つの中でも潮の流れが最も早く"最大の難所"と言われてきたそうだ。
最大時に10ノット、落差2メートル、時速18km、そして大潮のタイミングには直径10m以上の「八幡渦」と呼ばれる巨大な渦がいくつも発生するという。ちなみに、日によって潮の早さは異なり、そのレベルは10段階に分けられるとのこと。「今日は?」と聞くと……なんとレベル"8"! はやいっ!
そうこうしているうちに、遠くにうごめく白波が見えてきた。近づくにつれ、船は徐々にスピードを落とすが、次第に揺れは増していく……。
近くでみる「八幡渦」は、圧巻のひと言。こんな風に縦横無尽に波がうねる光景は、今まで見たことがない。「ここに落ちたら……」と考えただけでゾッとし、手すりを強く握りしめた。
それから、どんどん船は渦に近づいていく。どんどん、どんどん……え! もう飲み込まれるじゃない!? と思った瞬間、ガイドさんが「渦の上を通過します!」と衝撃発言。同時に船はぐわんと上下し、乗客の誰もが「うわっ!」「おぉ!」と声をあげた。
てっきり、渦の近くを通るだけとばかり思っていたが、まさか突っ込んでいくとは驚き。手に汗握るほど、スリル満点だった。
第伍話「ガイド語る、海峡の史」
「いやぁ~、すごい迫力だったね」「おれ、落ちたらどうなるか想像しちゃったよ」と、乗客たちは興奮気味。海賊の襲来、渦を通過を経て、よく言う"吊り橋効果"じゃないが、みんなで危険を乗り越えたような気分になり、いつの間にか乗客たちに妙な一体感が生まれている。
ここからは、来島海峡に点在する島や名所を巡っていくという。この来島海峡は、村上海賊ゆかりの史跡のほか、巨大な渦潮、これまた巨大な来島海峡大橋、日露戦争の戦跡……と、実に見どころが多い。船では、それら海峡に点在する見どころを巡りながら、ガイドさんが丁寧に解説してくれる。
真下から眺める圧巻の大橋、村上海賊が拠点にしていた島、大河ドラマ「坂の上の雲」で使われた28サンチ榴弾砲のレプリカなど、いずれも見ごたえ満点。美景はもちろん、歴史ロマンで知的好奇心も満たしてくれるスポットの数々に、乗客たちのシャッターは鳴りやまない。
第六話「巨船、迫る」
いよいよ航海も終盤。船は造船地帯へと進んでいく。今治市の代表的産業といえば「造船」。その主要施設が集結しているのも、この来島海峡なのだ。
近年、巷では"工場景観"が密かな人気となっているが、この船で見る造船所の景観はファンならずとも一度は見て欲しい。海から近づけるとあって、今まさに造船中の船、巨大な工場などがすぐ間近で眺められるとあって、迫力がスゴイのだ。
工場で働く方々もウェルカムな雰囲気で、近くを通ると手を振ってくれたりするのも、なんかいい。来島の造船は、世界でもトップクラスの技術と規模を誇るとあって、造船所が囲む湾に入れば、なんだかSFの世界に迷い込んだような気分にも浸れる。
最終話「航海の末に」
「では、港に戻っていきますね」というガイドさんの声を合図に、船は港へ向かう。相当に見ごたえがあった分、いつしか船に愛着がわき、下船するのが少し寂しい気持ちになってくる。そんな中、ガイドさんが「ここで、来島ゆかりの歌を一曲」と言って、センチメンタルな歌謡曲をアカペラで披露。……これが、沁みる。
ガイドさんの美声とともに幕を閉じた、来島海峡急流観潮船のクルーズ。所要時間は約50分間ながら、見ごたえは抜群。しかも、価格はなんと税込1,500円(大人)、安いっ!! これは"買い"というか"乗り"だ。この船をただの観光クルーズと侮ることなかれ。船の上では、大興奮のドラマが待っている。
●information
来島海峡急流観潮船
乗船場所:伊予大島 下田水港(道の駅 よしうみいきいき館)
時間:9~16時頃
※定期便ではなく、潮流などにより毎日運航時間が変わるので事前に要問い合せ