遊覧船といえば、"船上からのんびりと観光スポットを眺めるもの"というイメージをお持ちではないだろうか。愛媛県・大島から出航している「来島海峡急流観潮船」は、ひと味違う。村上海賊ゆかりの歴史ロマン、海流がぶつかり合う激しい海原、間近に迫る巨大な造船工場……そこには、身も心も揺さぶるドラマがあった。

渦潮がすぐ目の前に迫る……!

第壱話「雨したたる、出航前」

朝一から船で海へ出るというのに、あいにくの雨。しかも、なかなかの雨量。船が出航できないのでは? と一抹の不安を抱えながら、船の出航場所である道の駅「よしうみいきいき館」に到着した。

愛媛の名産品が豊富にそろう、道の駅「よしうみいきいき館」

近海で獲れた新鮮な魚介も、生けすで売られている

不安をよそに船は出ると聞き、さっそく船着場へ。そこでカッパを手渡される。てっきり雨が降っているからとばかり思っていたのだが、そうではない。波しぶきがかかることがあるのでカッパを着るのだという。「こんなに静かな海なのに……?」と少し不思議だったが、とにかくカッパを着用して船へ向かう。

漁船がズラリと並ぶ船着場。「急流観潮船のりば」の看板よりも、隣に立っている愛媛県のゆるキャラ「みきゃん」のサイクリング姿に目が奪られる。キュートだ。

このとき、筆者の頭の中では「船でのんびりと渦潮みたいなヤツを観るだけでしょ」としか思っていなかった。しかも、朝早くて頭はぼんやり。ところが、船に乗り込むと……。

カッパを着こんで船へ乗り込んでいく乗客たち。天候が悪いのが残念。写真には写っていないが、雨はザーザー振り……

第弐話「動き出す、船」

船に乗り込むと、全員が救命胴衣を着用。準備が済み、女性のガイドさんの「出航しまーす!」の一声で船は動き出した。

救命胴衣を着ると、すぐさま出航!

速い。思っていたより全然、速い。かなりのスピード感がある。乗客たちも皆、少し戸惑っている様子だ。しかも、時たまガッツリと波のしぶきがかかる(濡れたくない人は、ガイドさんがあまり濡れない席を教えてくれるそう)。そのたび、船上でちょっとだけ悲鳴があげる。このころから「あれ、おかしいな」と、いつもの乗りなれた遊覧船とは違うことに気づく。

波のしぶきを見ればわかる通り、船は予想以上に速い。一瞬で港が遠ざかっていく

乗客たちの困惑をよそに、ガイドさんは慣れた声色で「この海峡には、かつて村上海賊という~」と、海峡の解説をスタート。正直、動揺していたので、あまり頭に入ってこない。ちなみに内容は、戦国時代からこの瀬戸内の海峡を拠点に活動していた村上水軍(海賊)の話。村上海賊は、能島村上氏、因島村上氏、来島村上氏の3つの勢力に分かれており、その名の通り来島村上氏が、この来島に拠点を築いて活動していたという。

しばらくして、ようやく船の早さに慣れ始めたころ、突然ガイドさんが大声をあげた。「あれ!? あの船は何!? こっちに近づいてくるっ!!」

こちらに向かってくる小舟が一隻。その上には……!?

第参話「海賊、襲来」

ガイドさんが指さす方向を見ると、一隻の小舟。すごいスピードで、こっちに向かってくるではないか。目を凝らし、よく見てみると、あれ? 鎧兜を着てる。もしかして……。

なんと、村上海賊が! 赤い甲冑に刀を携え、威風堂々と登場!

「あれは、村上海賊です!」とガイドさんが声をあげる。すぐさま船の横まで来た小舟には、甲冑の男性が「村上海賊だっ!」と刀を振りかざす。

決めポーズをしっかりキープしてくれる、優しい海賊

まさか、あの伝説の海賊に出会えるなんて! 船上では乗客たちが歓声をあげ、誰もがカメラを構える。シャッターの嵐。また、それに応えるように、海賊は刀を高々と掲げてポージング。揺れまくりの不安定な小舟で、重い甲冑に身を包みながら必死にポーズをとる海賊……なんだか、とても愛おしい。

乗客たちを大いに盛り上げてくれた村上海賊は、さっそうと去っていた

次項では、ついに来島の急潮流へ!