分からないことだらけでも必死になれた舞台
――2017年の1月には舞台にも出演されました。演劇に興味を持たれるようになったのは、いつ頃からでしょうか?
実は興味を持ったのはここ数年の話で、宝塚歌劇をすごく好きになったことがきっかけです。舞台役者さんの凄さはもちろん、舞台照明の良さなど、ステージに関わること全般に興味を持って観に行っていますね。そのことをTwitterでよく話題にしていたら、オファーを頂いて、PREMIUM 3D MUSICAL『英雄伝説 閃の軌跡』*に初めて出演させていただきました。プロとしてのキャリアが5年も続いてくると、どうしても新しいことを始め辛くなってしまっているのを感じたんです。特に2016年がそうで、(自分が)守りに入ってしまっているのを感じていました。「このままではマズい」と思っていた時に舞台のお話がきたので、「これは絶対にやるべきだ」と直感的に思ったんです。
*PREMIUM 3D MUSICAL『英雄伝説 閃の軌跡』:日本ファルコムが1989年から制作している『英雄伝説』シリーズの中でも、特に高い人気を誇る『英雄伝説 閃の軌跡』をミュージカル化した舞台作品。2017年1月8日から15日まで、東京・Zeppブルーシアター六本木で公演した。
――ちなみに、それまで演技の経験は?
ないです。デビュー前くらいに、歌手になるかそれ以外かの選択を迫られて、迷わず歌手の道を選んだくらいなので。お芝居は、全く考えたことがなかったくらいです。
――とすると、本当にその時が初挑戦だったのですね。どのようなところに難しさを感じましたか。
難しいということよりも、分からないことだらけだったんですよね。自分以外の違う人物になるという経験がなかったので、「この子ならどんな感じで話すだろう?」と考えつつ、全体の皆さんの動き方を加味して動くだとか……自分の中に全くないものをたくさん求められる世界でした。とにかく足を引っ張らないように頑張るだけでしたね。
――分からないながらにたくさんの発見がありそうですね。
経験できたことは、とても大きかったです。まず、初めて自分が誰にも守られていないという状況になったんです。稽古場などではマネージャーさんが常にいる状況ではなかったので、自分から色んな方々と話をして、自分一人で解決しなくちゃならない。その中で必死になれたというのが大きかったですね。コミュニケーションの大事さも感じましたし、役者さんが全力でぶつかっていく姿を見て「最近の私はこれくらい全力でやれていたかな?」と自問自答したりしました。周りの方々にはご迷惑をかけてしまいましたが、助けていただき感謝しています。
止まらず続け、新しいものを生み出す
――この舞台のストーリーもバトルものと言えるでしょうし、これまでのタイアップもほとんどバトルに関連する作品ということで、黒崎さんは"戦う"ということに重きを置いているのではないかと感じています。また、これだけバトルものの作品に関わっていると、黒崎さんの詞や考えにも影響が出てくるんじゃないかとも思います。黒崎さんにとって"戦う"とは?
止まらないこと、続けることかなと思います。歌の練習ができなくても、インスピレーションに繋がるものを、何か一つでも拾い集めようとは思っています。作詞をすることでもそうですが、私にとっての"戦い"は、自分の中から新しいものを生み出すことであって、それは続けないと出てこないものなんです。
――10月下旬には今回のベスト盤購入者が対象のフリーライブがありましたし、年明けにはライブツアーも決定しています。「このライブが今の自分を作っている」というような公演は過去にありましたか?
映像化はされていないのですが、2014年に東京・新宿BLAZEで行った「MAON KUROSAKI Birthday Live 2014 -VIOLET!!-」というバースデイライブがそれですね。初めて舞台演出を私の思い通りにしてくれたライブで、曲順や衣装はもちろん、音楽が止まらない……物語的に続いていくような内容のパフォーマンスをやらせてもらって。そのライブは、黒崎真音の新境地を描いたと言えるものだったので印象的でした。私の楽曲は様々なタイプがあって一括りにはできないんですけども、黒崎真音の全てを(セットリストの)20曲から25曲に封じ込めなくてはいけなかったわけです。それを初めて意識したライブでした。
――では、デビューからの7年間で思い出深い出来事は?
たくさんありますけど、5周年記念のワンマンライブは、その時の最高のものを作れたなと思います。ライブの記憶はやっぱり強く残りますね。5周年を、こんなに多くの人が温かく迎えてくれたというのを実感できたライブだったんです。すごく幸せでした。
初めて発注した「僕はこの世界に恋をしたから」
――5周年ライブを経た後に発売されたアルバム『Mystical Flowers』では、ファンへの感謝を込めた「種」という曲が入っていました。他方で、今回のベスト盤に収録されている「僕はこの世界に恋をしたから」は、その気持ちをご自身でフィードバックして、新たに作り上げたものではと感じます。タイアップではない新曲で、100%の黒崎真音を表現できたのではないかとさえ思うのですが、制作はいかがだったでしょうか?
この新曲に関しては、「優しい曲がいい」「戦うのとかは、今の私じゃないです」とスタッフに伝えたんです(笑)。作編曲を務めてくださった丸山真由子さんに「これまでのこと、これからのことを、同時に語れるような優しい曲」というイメージを伝えていました。実は、これまでは自分から曲に関する注文もスタッフにしたことがなくて、「このアニメのタイアップになります、曲はこういうのです」という風に渡されて詞を書いたり歌ったりする流れだったんです。だから、発注は初めての経験でしたね。
――なるほど。ご自身の意志や気持ちをより強く込められたということですね。
アニメソングを作る仕事って、自分の色を100%出してはいけないと思うんですよ。その作品を好きな人や原作者さんが聴いて、納得できるものじゃないといけないと思っていたので、デビューしてからしばらくの間は、作品の色と自分の色の比率は9:1くらいのイメージでずっとやってきました。ただ、今は色んな人と出会って経験してきたことで、「黒崎真音が思うものを作ってみても良いんじゃないかな」と思えてきていて。その第1弾としてこの曲を作ってみたんです。
黒崎真音のカラーをもっと強めていきたい
――では、"これからの黒崎真音"のイメージをお聞かせください。
黒崎真音のカラーをもっと強めていければ良いなと思いますね。自分の中で自然と出てきたものや、黒崎真音のキャラソンと言えるものをもっと本気で作ってみたいなと思います。「私だから言えることがあるんじゃないか?」「伝えきれていないことがあるんじゃないか?」とは思うので、そこにこだわっていきたいですね。その瞬間にできるベストを、作っていきたいです。
これはファンの方々にもよく伝わっているかと思いますが、東京・日本武道館でワンマンがしたいですね。それに、長く歌い続けていきたいというのもありますし、このシーンの中で良い意味で異端児でありたいなと思っています。あと、ファンクラブイベントで芋掘りをしたことがあるんですけど、そういう突拍子もない不思議なことをやってみたいなという気持ちもあります。具体的に挙げると、たくさんありますね。タイアップ無しのオリジナルアルバムも作ってみたいですし、ファッション関係ではオリジナルの服をプロデュースしてみたいし、ライブグッズで自分が描いたアートを販売しているんですけど、それらを一斉に集めた個展も開いてみたいです。
――夢や目標が多いですね。
逆に言えば、夢が終わらないようにいつも探していますし、常に情報を探し求めているところはあります。これもまた、続ける、止まらないということですよね。
■プロフィール
黒崎真音
1月13日生まれ。東京都出身。A型。幼少期から音楽と触れ合う中、歌手活動を開始し、2000年代のアニメやアニソンに多大な影響を受け、東京・秋葉原ディアステージなど多数のステージに出演してきた。2010年にTVアニメ『学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD』の様々なサウンドやテイストで毎話変わるエンディングテーマを 1人で担当し、アルバム『H.O.T.D.』で念願のアーティストとしてキャリアをスタート。その後も、『薄桜鬼 雪華録』『とある魔術の禁書目録』『東京レイヴンズ』『がっこうぐらし!』『ドリフターズ』など数多くの人気アニメの主題歌を務めてきた。2017年1月にはミュージカルへ出演するなど、アニメソングのシンガーにおいては異端児的とも言えるキャリアを積み重ねている。