だが、それでも富士通は、PC事業を切り離す姿勢は一切変えなかった。東芝が自力再生に舵を切ったのとは異なる判断であった。
一方で、富士通ブランドが維持されること、そして、ノートPC・タブレットの生産拠点である島根富士通での生産が維持されることは評価したい。
富士通のPCは、国内開発および国内生産体制によって、富士通ブランドならではの付加価値を実現してきた。
13.3型ノートPCとして世界最軽量となる「LIFEBOOK UH75/B1」を投入したり、狭額縁の一体型PCを製品化するといった成果につなげたり、金融機関向けや生保向け、教育分野向け、あるいはカラオケボックス向けの専用機種を、独自にカスタマイズした形で、開発、生産できるのも国内生産という部分が大きい。
実際、日本における生命保険向け端末市場において80%のシェアを獲得。文教市場におけるWindowsタブレットの導入シェアでも86%という高いシェアを獲得している。
「富士通は、PCビジネスを35年間やってきている。この実績をもとに、ベストフィットする製品を提案していくことができる。要望に応じて、オーダーメイドで製造や設計が可能であり、顧客が望むリードタイムで、製品を提供することができる」(富士通クライアントコンピューティング・齋藤邦彰社長)というのも、こうした体制があるからだ。
その点は、富士通のPC事業の強みは維持されるといっていいだろう。
富士通ブランドは維持、個人向け製品はFCCLから販売
レノボは、これまでにThinkPadの開発体制を独立した形で維持させたり、NECパーソナルコンピュータもNECブランドの使用期間を延長させるとともに、米沢事業場での開発、生産を維持することで、ブランド価値を高めてきた。富士通ブランドのPC事業に関しても、その姿勢を堅持することになる。発表では、国内の個人向け製品が、FCCLから量販店経由、あるいは直接お客様に提供し、サポートサービスもFCCLが提供することが記されている。
だが、富士通のPC事業がレノボグループとなったことで、NECブランドのPCと、富士通ブランドのPCをどう棲み分けていくのか、過剰体制となる生産拠点をどうするのか、そして、重複する部門の人員削減といった点の動きも気になる。優秀な人材の流失につながる可能性もある。
また、官公庁や教育分野に強みを持つ富士通ブランドのPCが、今後、この領域でシェアを維持し続けることができるのかも気になる。
部品調達においては、レノボグループの調達力を生かすことができるというメリットがあり、コスト競争力を高めることにつながるだろう。だが、すべてが手放しで喜べるわけではないのは確かだ。