葛飾北斎の絵の見方が変わってくる

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そして翌日、上映会場には作品に興味を持った多くの参加者が集まった。宮崎が「葛飾北斎を知っている方は世界中にたくさんいらっしゃると思いますが、葛飾北斎が描いている絵にも、実はお栄さんの筆が入っているかもしれないということをドラマを通じて知ることで、絵の見方が変わってくるかと思います。そういう意味でも見応えのある作品です」と説明するように、このドラマの魅力は実在する人物を描きながら、知られざるドラマを浮き彫りにする点にある。

実際、実在する人物を描く歴史ドラマは世界で人気が高く、例えば、NHK総合で9月まで放送されたイギリスITV制作の『女王ヴィクトリア 愛に生きる』などもその1つだ。『眩』は、そんな注目度の高いジャンルであり、19世紀の江戸を舞台に、普遍的な家族の愛情と仕事に対する葛藤のストーリーが描かれているところも、世界から受け入れやすい。

制作統括の佐野氏は「1つのブランドである北斎を取り上げたのは、海外を相当意識したから。できるだけ多くの方に、言語が違う方にも観てもらおうと当初から狙って制作しました」と明かす。宮崎もこれに応じるように、「お栄さんはとても粋な女性です。そんなイメージに合うよう御着物の帯の位置が低かったりと、これまでにない着こなし方でした。今まで日本の時代劇をご覧なっていた方には、それがかっこいいと思ってもらえるかもしれません。御着物は日本人にとっても美しく、海外の方にとってはことさら特別なものかと思うので、日本のドラマにしかない美しさもこのドラマにはあります」と語った。

上映会場に足を運んでいたポーランド人のバイヤーは「何かユニークさがある作品をいつも探しています。『眩』はこれまで観たことがない歴史ドラマの描き方。そんなストーリー展開に関心を持ちました」と感想を述べていた。

『眩~北斎の娘』より=NHK提供

海外ドラマの制作手法を意識

テレビ技術トレンドの4K制作ドラマであることもポイントの1つだ。セットの作り方や衣装、絵の具の色彩など、4Kを意識した演出が散りばめられている。演出した加藤氏は「2014年から4Kドラマを制作する中で感じていることは、新しい技術と演出の方向性がシンクロすると、新たな作品を生み出すことができるということ。これまで手掛けた『坂の上の雲』や『八重の桜』が国際エミー賞にノミネートされた機会などから、日本と海外のドラマの作り方の違いを実感することもありますが、今、いろいろな流れに変化が起きているからこそ、日本にもスタンダードに忠実な海外ドラマのようなドラマも作っていくべき。そんなことも意識してこの作品も完成させました」と説明する。

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4K制作に興味を持ち、上映会に参加したアメリカ人のドキュメンタリープロデューサーからは「冒頭のドキュメンタリーのような演出によって、ドラマの世界により深く入り込むことができました。宮崎あおいさんの演技にも感銘を受けました」という評価の声も聞けた。

上々の反応を得たが、今回の上映を足掛かりに世界にしっかりと流通させ、結果を出すのはこれから。連続ドラマの需要が高い中で単発ドラマの海外展開は難しさもあるだろうが、可能性を追求してほしい。上映会後に佐野氏は「これが突破口となって、『蝶々さん』や『篤姫』など、これまで宮崎さんと蓄積してきた番組をさらに世界で観てもらいたい…」と思いを話していた。

世界のテレビマーケットで、日本が評価された場面は他にもあった。後編では民放局を中心に、各局のドラマセールス展開の様子をレポートする。

『眩~北斎の娘』より=NHK提供

■長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト。1975年生まれ。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者として勤務し、仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴は約10年。エンタメビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。