光の当たり具合で表情を変えるクルマ

線に頼らないデザインは想いを伝えることが難しい。光が当たったとき、線があればそこで明暗がくっきり分かれるけれど、面の凹凸は光の角度によっては分かりにくい。そこでマツダは照明にこだわった。2年前のRXビジョンと今回のビジョン・クーペの展示に使われた大きな白い照明装置だ。

RXビジョンが出展されたとき、デザイン本部長として魂動デザインを立ち上げた前田育男氏にRXビジョンについて伺ったところ、照明もデザインの一部という答えが返って来た。今回のビジョン・クーペも同様のこだわりで作り上げられたのだろう。

光がデザインの一部となる(画像提供:マツダ)

ビジョン・クーペの正面に立ち、ゆっくり回転していく車体を見ていると、ボディサイドで少しずつ姿を変えていく光の映り込みが、屋外の道を走り去っていくときの光の移ろいに見える。それをインドアのブースで体感するための装置なのだ。そして色にも工夫がある。

「前回のモーターショーに展示されたRXビジョンは、艶やかさをアピールするために、魂動デザインのイメージカラーとしてきた『ソウルレッド』の進化形と言える赤を用いました。しかし、今回のビジョン・クーペでは、金属質の強さを再現したいという目的があったのでダークシルバーとしました」(前出の岩尾氏)

ダークシルバーで金属質の強さを表現(画像提供:マツダ)

クーペスタイルにも反映されるマツダの伝統

4ドアクーペというボディタイプにした理由もある。プレミアムブランドでこの種のボディがトレンドになっているからではない。マツダは乗用車第1号の「R360クーペ」、前輪駆動のロータリーエンジン車であった「ルーチェ・ロータリークーペ」など、クーペにこだわってきたブランドのひとつだ。ビジョン・クーペはこうした文化を反映したデザインでもある。

1969年発売の「ルーチェ・ロータリークーペ」(画像提供:マツダ)

2年前に公開されたRXビジョンは近い将来、ロータリーエンジンを積んだスポーツカーとして市販化されると噂されている。今回のビジョン・クーペは、次期「アテンザ」になるのだろうか。これまでもコンセプトカーのデザインを量産車に忠実に反映してきたマツダだからこそ、「SKYACTIV-X」だけでなく新世代の魂動デザインにも注目したい。