それでも同社のプリンティングソリューション事業が増収増益となっているのは、新興国を中心にした大容量インクタンクプリンタの成長が寄与しており、同時に、販売後のインクカートリッジでの収益確保に頼らないビジネスモデルへのシフトが、安定的な利益を生むことにつながっているからだ。

従来のインクカートリッジによる収益モデルは本体で利益が確保しにくく、年賀状印刷の減少や写真プリントの減少にともなって、インクカートリッジの販売数量が減少。収益性を悪化させることにつながっていた。だが、大容量インクタンクプリンタへのシフトによって、こうした課題の解決につながっている。

しかも、全出荷量の45%を大容量インクタンクプリンタが占めるようになることで、その安定感はさらに増すことになる。新興国から先進国へと大容量インクタンクプリンタの販売を拡大することで、エプソンは、プリンタビジネスの収益性をいち早く安定させることに成功したともいえそうだ。

同社のプリンティングソリューション事業におけるもうひとつの注目点が、2017年6月から出荷を開始した高速ラインインクジェット複合機/プリンタ「WorkForce Enterprise LXシリーズ」の動向だ。

大容量インクプリンタや高速ラインインクジェット複合機など明るい材料も多いが、Q2は増収減益にとどまった

高速性を生かして、既存のレーザー方式の複合機からの置き換えや、軽印刷分野での利用を想定し、エプソンにとっての新たな領域への挑戦として注目を集めていたが、「印刷性能や環境性能への評価が高く、顧客への納入実績も着実に増えている。将来成長を担う製品として順調なスタートを切っている」と、碓井氏は自己評価する。

長野県塩尻市の広丘事業所を拡張し、インクジェットプリンタヘッドの生産体制強化を進めるほか、高速ラインインクジェット複合機/プリンタの投入にあわせて、日本、米国、欧州において販売要員の採用を加速し、販売組織体制の強化を進めている。当初は軽印刷向けの比重が高いと想定していたものの、既存の複写機を置き換える形での導入の割合が多いという。

一方で、「商談そのものは予定通りに進んでいるが、導入を決定していた後に、稟議を通し、決裁し、実際の導入が始まるまでに時間がかかる。我々が考えていたスピードでは売りにつながっていない」とも語る。

中期経営計画は合格点か

同社では、2016年度から2025年度の10年間にかけて、エプソンが向かうべき方向である新長期ビジョン「Epson 25」を定め、このビジョンの実現に向け、2016年度を初年度とした3カ年の中期経営計画「Epson 25 第1期中期経営計画」を実行している。2017年度上期で、第1期中期経営計画のちょうど半分が終了したことになる。

碓井氏は、「第1期中期経営計画は折り返し点を過ぎたことになるが、戦略は着実に進展していると考えている。インクジェット、ビジュアル、ウェアラブル、ロボティクスの4つの事業領域においてイノベーションを起こすべく、重点分野での販売拡大を進め、新製品の開発や生産体制の強化などの将来に向けた基盤づくりも同時に進めている。Epson25の実現に向けて、粘り強く取り組んでいく」と語る。

主力のプリンティングソリューション事業において、大容量インクタンクプリンタと、高速ラインインクジェット複合機/プリンタの2つの柱が、順調な事業拡大と滑り出しをみせている。第1期中期経営計画の折り返し点は、合格点といえそうだ。