――テレビドラマのトレンドが、分かりやすさを重視する中で、今作では先ほどの洗車のシーンのように、ディテールにこだわった映画的な演出をされている印象があります。
あまり、テレビだから映画だからということは意識していませんが、若い時から説明的な演出は嫌いなんですよ。もともとCMのディレクターをやっていたので、もう1回見たくなるようにさせる細かい演出というのが、なんとなく身についているのかもしれません。テレビはザッピングされちゃうので条件としては厳しいですけど、その中でもどれだけコミュニケーションができるのかということを考えています。
監督というのは、脚本や撮影や演出のプランなどいろいろ仕事がありますけど、一番大事なのは、キャラクターをどう作るかっていうところだと思うんですよ。そこは最もエネルギーを注ぐ部分なので、今回の『刑事ゆがみ』も、その前の映画『昼顔』も、キャストはだいぶ絞りましたね。あんまり大勢入れると、キャラクターが自分の中でパンクしてしまいますので(笑)
きょう26日放送の第3話は、羽生が尊敬する交番勤務の真下誠(寺脇康文)が、退官直後に何者かに頭部を殴打される事件が発生。必ず自分の手で班員を捕まえると決意する羽生と弓神が、複雑に絡み合った人間関係を解きほぐしながら、真相に迫っていく。 |
――キャストの話になりましたが、浅野忠信さん、神木隆之介さんとお仕事するのは、いずれも初めてですか?
浅野さんは初めてです。神木くんとは、リリー・フランキーさん原作の『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』(06年)で一緒だったんですけど、彼はすっかり忘れていました(笑)
――それぞれの魅力は、いかがですか?
もう浅野さんは、この人じゃないと弓神というキャラクターが成立しなかったんじゃないかと思うくらいです。これは自分の想定の範囲以上でした。最初にお会いした顔合わせの時に、すでに彼の中でキャラ作りが始まっていたのかもしれないと思うくらい、しゃべりの中のいい加減さとかに、「もうこの人、できてるな…」と感じました。そして、とても正直で精神がきれいなところが弓神に似てると思いました。それが役づくりなのか本人の気質なのかは分からないんですけど。現場でもアイデアが豊富で、各々に引き出しからアイデアの出し合いで作ってます。
――浅野さんから出てきたアイデアで、実際に採用したものは何ですか?
衣装をわりとルーズにしているので、ポケットの中を膨らませておこうというアイデアをいただきましたね。大事な資料を見せようとするんだけど、適当な紙とかと一緒にポケットの中に突っ込んでるから、あちこち探してもなかなか出てこなくて、見つかってもいつもクシャクシャになってるとか、メモをとるのはいつも競馬新聞の赤えんぴつだとか。1個アイデアをもらうとこちらも出てきて、こちらが出すと向こうも出てくるという、キャラ作りにおいてすごくいい関係になっています。
――よく、良いキャラクターはひとり歩きしていくと言いますよね。神木さんの魅力はいかがですか?
原作での羽生はもっと優等生なんですけど、今回は腹黒さを持たせて、素行の悪い弓神と、性格の悪い羽生というコンビにしようと思いました。神木くんは、今までにない役柄だったので乗ってくれましたね。そして、頭が良くて、ケンカも強くて腕っぷしもあるというキャラクターにして、走るシーンや格闘シーンも結構やらせていますが、彼のワイルドな顔つきが見られたときは、ゾクッとしますね。
――第1話で、羽生が弓神をマンションで追いかけるシーンがありましたが、別々の階段を下りていったにもかかわらず、追いつくタイミングが見事でした。お2人の息がぴったりですね。
あのシーンはワンカットで撮影しようと決めていたので、何テイクもやることになるだろうと覚悟して、自分がどこまで我慢できるかなぁ…と思ってたんです。夜で暗いし、合図を出しても分からないですからね。でも、本番は一発OKだったんですよ。あらためて2人の身体能力の高さや、"芝居勘"を感じましたね。
――これから先がますます楽しみですが、最後に今後の構想を教えてください。
1つは、さまざまな心の闇に、弓神と羽生の2人がどう向き合っていくのかというのが大きなテーマなんですが、一方で、男同士の2人のある種の"ラブストーリー"という見え方がしてくるといいかなと思っています。今後、羽生が弓神に反目したり、弓神が羽生を見限ったり、もしかしたらバディを解消することになるのか…。そんな2人の関係が、一番の見どころになってくると思います。
●西谷 弘
1962年生まれ、東京都出身。これまでに手がけた主な作品は、ドラマは『美女か野獣』『白い巨塔』『エンジン』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』など。映画は『容疑者Xの献身』『アマルフィ 女神の報酬』『真夏の方程式』『昼顔』など。
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