俳優の浅野忠信と神木隆之介が、凸凹バディの刑事を演じるフジテレビ系ドラマ『刑事ゆがみ』(毎週木曜22:00~)。早くも名コンビぶりが話題を集め、SNS上では、同じ曜日に放送されている人気シリーズ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)よりも大きな盛り上がりを見せている(※)。

このチーフ演出を担当するのが、『白い巨塔』『ガリレオ』『昼顔』といったヒットドラマを手がけてきた西谷弘監督。ここまで撮影してきた中での浅野&神木の魅力や、こだわりのシーンなどを聞いた――。

(※)…Yahoo!リアルタイム検索でのツイート数比較(10月19日20:00~24:00)
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『刑事ゆがみ』西谷弘監督

――今回、マンガ原作の演出を手がけるのは、初めてとお聞きしました。

マンガ原作は画ができ上がっているものに対して作っていくという作業なので、すごく不安がありました。マンガがアニメになったところで、声が自分のイメージじゃないとガッカリすることってあるじゃないですか。そういったことを視聴者が感じてしまう恐怖心があったんですけど、『刑事ゆがみ』の原作を読むと、単なる事件解決とかトリックとかの刑事モノではない、人の心や世の中の"ゆがみ"というのを見抜いて描いていくというところにひかれて、これだったらやってみたいという気持ちになりました。

――第1話から、原作にないシーンが随所にありました。まず、犯人が原作と違かったのですが、これは西谷監督のアイデアですか?

そうですね。原作では、浅野さんが演じる弓神が1人で行動するんですけど、ドラマは神木くん演じる羽生とのバディになっていますよね。野郎2人となると、古き良き昔の刑事ドラマだと、男たちの生き様を魅力的に描く作品が多かったと思うんですが、今回はせっかく色っぽい中年男とイケメンの男がいるので、女性の心の闇にどう向き合い、それにどう触れていくのか…というものを作りたいと考えました。だから、原作の井浦秀夫さんの了解をいただいて女性をキーマンにしていまして、第1話の犯人を杉咲花さんが演じた駅員に、第2話も水野美紀さんが演じた女性教師を中心に描きました。

――男と男のバディということで、第1話の冒頭シーンで、弓神と羽生の対峙する場面が象徴的でした。そのファーストカットで羽生の瞳に弓神が映っているのは、どんな狙いがあったのですか?

"心の闇"というのが1つ作品のテーマにあるので、闇の中に弓神がいて、それを見ているのが羽生だったという、2人の間に対比をつけたいというところから着想しました。

――西谷監督は、他の作品でもファーストカットをすごく凝って作っている印象があります。やはりそういった意識はされているんですか?

はい、すごく意識してますね。自分は映画でもドラマでも、やっぱりファーストカットで面白いかどうかを決めつけてしまいますし、ファーストカットがしっかりしているものは、大抵面白いという感覚があります。作品のどアタマとヘソ、それにケツと、起承転結の部分になる映像は、ある程度自分の中で凝って作りますね。

『刑事ゆがみ』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)
井浦秀夫氏の同名漫画を原作に、浅野忠信演じる真実解明のためには違法捜査もいとわず事件を解決していく弓神適当と、神木隆之介演じる成績優秀で強い正義感ゆえにふりまわされてしまう後輩の刑事・羽生虎夫の凸凹バディが、さまざまな事件を解決していく姿を描く。
(写真は左から)浅野忠信、神木隆之介 (C)フジテレビ

――他にも、第1話で原作にないシーンと言えば、弓神が乗っている車のフロントガラスに、協力者のヒズミ(山本美月)が洗車の水をホースでかけるという場面がありました。

最初は弓神の乗った車が洗車機の中に入ることによって、彼の脳内イメージを、洗車機の機械がぐるぐる回っている画で表現したいと思ったんです。でも、ロケハンで実際に車を洗車機に入れてみると、ダットサンという古い車なんで、水が全部車の中に入ってきちゃって(笑)。これはテーピングしてもダメだとなって、今度はフロントガラスに水を当てることによって弓神の表情を歪ませて、これから自分の実行することが羽生の悲しみを生むんだということを見据えた思いを、弓神がボーっと思考しているように描くことにしました。

――ただのカッコいい映像かと思いきや、塗料のスプレー缶がダッシュボードに置いてあり、その後の伏線になる重要なシーンでしたよね。あの発想は、脚本からではなく、映像的な観点から出るものだと思いました。

1~2話に関しては脚本を1回全部自分でも書いてみるんです。脚本を書くときと映像化していくときは、使う筋肉がちょっと違うんですよね。別に弓神が、ヒズミのいるマンガ喫茶で考え事をしてるシーンでもいいわけですよ。だけど、映像化する時に1回引いて考えてみることで、洗車場という表現が思いつくんです。

――脚本の話になりましたが、今回の倉光泰子さんは、福山雅治さんが主演した『ラヴソング』(16年)から続いてのタッグになりますね。

やっぱり女性ならではの観点というのは、絶対的に自分の中に無いものなので、そこが一番助かりますね。彼女のおかげで、今回のテーマでもある「女性の心の闇」が、うまく描けていると思います。