ATIは高すぎない壁ではあるものの

同じワールドアライアンス以外のパートナーとのATIは、これまで認められている事例がすぐに浮かばないほど稀なケースであることに加え、ATIが認められる基本的な要件をJALとHAが満たすかについての当局の判断がどうなるのか、予断を許さないと思われるためだ。

日本=ハワイ間に関しては、ANAはユナイテッド航空とのジョイントベンチャーがある

ATIには、それを行うことでもたらされる業界、利用者への影響が、それ以前の状態に対してより競争的環境を提供し、利用者利便を向上させ、市場の拡大をもたらすことが求められる。日本=ハワイ間の座席シェアはJAL・HA連合が45%程度、ANA・UAのJVが20%弱、デルタが30%弱(いずれも2016年夏ダイヤ時点)であり、JAL連合のATIが運賃を高止まりさせるおそれは、他の認可事例と比べて少ないとは言える。また、利用者に対しては、両社によるダイヤ・運賃の調整が両社の品揃えを多様化・便利化することは可能だろう。

他方、このATIが市場の拡大につながるのかというと、日本=ハワイ路線の旅客はほとんどが日本人かつ日本=ハワイ間の地点間需要によって占められており、JVによる効果でハワイを経由して以遠の米国地点に向かう日本人が増加することはないと見られる。台湾や中国などからのハワイ向け需要が、これによって今以上に拡大することも考えにくい。つまり、消費者便益の向上と言っても、現在150万人の両国間の旅客への限定的なものとなるのであれば、両国運輸当局がすんなり認可するとは考えにくいとも言える。

もともとHAは、ハワイ市場でのANA・UAのATIには反対の立場だったわけで、今回、ANAがJAL・HAのATIに表立って反対するわけにはいかない中では、デルタが米国運輸省にどのような立場で臨むのかも大きな要素となろう。

ANA・JALが目指す市場は

今後のANA・JAL両社の提携競争は、非アライアンスおよびスカイチーム所属のエアラインを巡って様々な形で激化していくと思われる。両社が就航するアジア各地域以外でも、今後、日本人のデスティネーションとしての伸びが期待される東ヨーロッパや中央アジアなど、自社路線の空白地点(日本人需要の伸びは一定度期待できるものの自社でデイリー運航するには市場が成熟していない国・都市)でどのような提携形態を模索するのかは難しい問題である。

今後も自社路線の空白地点におけるANA・JAL両社の提携競争は続く

両国とも日本直行便を運航しないケースがほとんどだろうから、各国間の航空権益(以遠権等)の状況を見ながら中間経由地としてどの国・エアラインを活用するのかが悩ましいことに加え、資本提携も含めたアライアンスになれば投資制約の法的環境にも留意しなくてはならなくなる。日本から世界に広がるアライアンス動向への興味は尽きない。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。