猫の招きでお寺も井伊家もウィンウィン

昔、寺の和尚が猫を愛し、自分の食事を分け与えるなど、我が子のようにかわいがっていた。和尚は猫に「もし、恩を感じるなら、何か果報を招来せよ」と言い聞かせた。

豪徳寺では今日も、ものすごい数で招いてくれる

ある日の昼下がり、鷹狩りの帰りと思われる武士5~6騎が寺の門前に馬を乗り捨てて、「我らが、今、寺の門前を通行しようとすると、猫が一匹うずくまり、手を挙げてしきりに招いていた。その様子が、あまりにおかしいので入ってきたのだ。しばらく、休息させよ」と和尚にいう。

和尚が武士たちを招き入れると、たちまち外では夕立が降り出し、雷も鳴りはじめた。それでも、和尚が心静かに説法を続けると、武士たちは大いに喜び、帰依したいという。聞けば、この武士は彦根城主の井伊直孝だといい、「猫のおかげで雨を避けることができ、貴僧の話を聞くことができたのも仏の導きだ。以後、心安く参ることにしよう」と言い、立ち去った。

これが豪徳寺の吉運の始まりで、以後、寺は井伊家の菩提寺になり、多くの田畑を寄進され、大いに隆盛する。和尚は後に、吉運をもたらした猫の姿形をつくり、招福猫児と称するようになった。

以上が、豪徳寺が"招き猫発祥の地"と言われる由来だ。ここに登場する井伊直孝の先代が、「徳川四天王」のひとりで、初代彦根藩主となった井伊直政であり、さらにその先代の井伊家総領が、現在、NHK大河ドラマで放送されている『おんな城主 直虎』の主人公・井伊直虎だ。

豪徳寺境内には、受付で招き猫や招き猫の絵馬が売られている以外、"招き猫発祥の地"であることを示すような史跡はないが、猫のおかげで雨と落雷の難を逃れた直孝や、幕末に桜田門外の変で討たれた井伊直弼(なおすけ)を始めとする、彦根藩主や藩主正室などの墓石が並ぶ「井伊家墓所」がある。

彦根藩主「井伊家墓所」。一番右の墓石が井伊直弼の墓だ

猫グッズのお店に立ち寄りながら

宮の坂駅から次の山下駅までは歩いてもいいのだが、せっかく一日乗車券があるので、電車で移動することにする。山下駅で降りたら、すぐ近くの小田急線の豪徳寺駅改札前に行ってみよう。ここには大きな「招き猫像」があるので、記念撮影にオススメだ。

小田急の豪徳寺駅前に立つ招き猫像

さて、ここから、右手に見える商店街へ足を伸ばし、"猫グッズ"が売られているお店、2軒に立ち寄ってみたい。

一軒目は、豪徳寺駅から徒歩3分ほどの場所にある「東肥軒(とうひけん)」という和菓子屋さんだ。桃山をベースにした焼き菓子「招福万寿 千代香猫(チョコニャン)」「招福万寿 黄味招猫(キミニャン)」(1個税込130円)や、「吉祥もなか 招き猫」(1個税込120円)、プレーン・ごま・チョコの三種の味が楽しめる「招き猫サブレ」(1枚税込120円)など、同店のオリジナル製品を中心に、様々な猫のお菓子が販売されている。

東肥軒の猫をモチーフにした和菓子たち

招き猫サブレ8枚入り(税込1,220円)

同店が猫をモチーフにしたお菓子を製造・販売を始めたのは、20年ほど前からだという。元々は豪徳寺の招き猫にちなみ、店内に猫の人形をディスプレイしていたが、それを欲しいというお客さんが多く、せっかく和菓子屋なのだからということで、猫のお菓子を販売し始めたのだそうだ。

さて次は、「猫好きな人と仲間になりたい」という店主の想いを集めたねこ雑貨店「東京ねこなかま」に向かおう。東肥軒から商店街を駅に向かって戻る途中、内科医院の角を右に曲がった先にある小さなお店だ。

雑貨店「東京ねこなかま」店内は猫グッズでいっぱい

店内には、職人さんが手作りした精巧なぬいぐるみや、福岡県の「のび工房」で作られ、他では手に入らない七宝焼のブローチやピアスなどのアクセサリー、YouTubeで人気に火の付いた猫の「まる」さんのグッズを始め、様々な"猫グッズ"が所狭しと並べられている、猫好きにはたまらないお店だ。

猫がプリントされたエコバッグ(税込1,000円)

今回購入したのは、人気商品のひとつであるという、猫がプリントされたエコバッグ(税込1,000円)だ。持ち歩くと、まるでバッグの上に猫が寝そべっているようでかわいらしい。なお、「玉電開通110周年記念イベント」期間中、同店では500円以上購入すると、のび工房製の一筆箋がもらえる特典があるので、こちらもぜひ手に入れたいところだ。

山下駅に戻って電車に乗り込めば、後は松原駅を経て、終点の下高井戸駅に到着して、世田谷線の短い旅は終了となる。

玉電開業当時の車体色を模した「旧車体色ラッピング電車」

「玉電開通110周年記念イベント」期間中は招き猫電車の運行の他、「福を招くねこ募集キャンペーン」や「招き猫絵付けワークショップ」、玉電開業当時の車体色を模した「旧車体色ラッピング電車」の運行など、様々な催しが行われている。商店街の人に話を聞くと、これまで小田急を利用して訪れる人が多かったが、イベントが始まってからは世田谷線に乗って訪れる人が増えた気がするという。これを機会に、都心のローカル線、世田谷線を使っての散歩を楽しんでみてはいかがだろうか。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト、オールアバウト公式国内旅行ガイド。大磯町観光協会理事。鎌倉ペンクラブ会員。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に取材・撮影を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。