では、なぜこうした列車の設定が流行となっているのか。その目的は、少子高齢化社会、すなわち利用者減少時代を睨んで、各路線の沿線の魅力を高め、「住みたい、住み続けたい」と思わせることにほかならない。日ごろは満員電車で通勤していても、たまにはゆったりした座席で出社したい、帰りたいと思うことがあるだろう。しかし、そもそも利用している路線に座席指定制列車が運転されていなければ、かなわぬ夢でしかない。現在の京王電鉄京王線も、そうした路線のひとつだ。
京王の事例を考えてみるに、やはり利用者の減少を睨み、それを食い止めるための座席指定制列車導入であることには間違いない。同社の統計によると、年間の輸送人員は2007~2016年度の10年間、6億3000~6000万人前後で推移してきており、特に定期券客は2億6000~7000万人前後ですっかり「安定」してしまっている。高齢化が進み就労人口が減る時代となれば、どうなるかは自明だ。2015年度から定期券以外の客が増加傾向にあるが、これは主に、著名ガイドブックへの掲載でインバウンド客の人気が高まった、高尾山への観光客の増加によるものと思われる。
中央線快速もグリーン車導入
一方、新宿~京王八王子間の京王線は、JR東日本の中央線快速との競合路線でもある。中央線快速には2021年度以降、全列車にグリーン車を増結する計画がある。これは座席指定制ではないものの、やはり追加料金の支払いにより定期券でも利用でき、座席を確保できる可能性も高い。京王にも、何らかの対応作が必要とされるであろう。
とはいえ、京王線と中央線快速が真に競合していると言えそうな区間は、実は高幡不動~京王八王子・高尾間だけにすぎない。調布や府中といった主要都市は、地理的に京王の独占状態にある。また、多摩ニュータウンに通じる京王相模原線は、小田急多摩線と若葉台~京王多摩センター間で競合しているものの、利便性などから長年、京王優位が続いてきた。だが、最近は小田急が東京メトロ千代田線直通急行を増やすなど、攻勢に出ている。 京王にとってみれば、長い距離を乗る安定した定期券客を逃したくはないという思惑は、私企業として当然ある。それゆえ、着席を保証するという、それまで運転した経験が一切ないタイプの列車の導入に踏み切ったのだ。