――現在のハードな国際情勢のなかでは、ドラマの中での脅威をリアルが追い越すような状況もあるのではと思います。そういった中で、ヒーローが悪を倒すドラマを作る難しさ、また作品を作る意義をどのように考えておられますか。
そうですね……『ビルド』は戦争がテーマの一つにもなっていて、でもそれこそ今描くべきことなのかもしれないという印象をもちました。そのために今までにやれなかったような、人体実験などのハードな要素も入れています。
だからといってほかの国のことを描く番組でもない。3つに割れているのは日本ですからね。日本って、国境という概念が薄い国なので、そこに国境の概念をもたせたところが今回は面白いなというところはもちろんある。あとは武藤さんの中でも、戦争がテーマなんだけど戦争を否定するというか、要は仮面ライダーってもともとショッカーという世の中を攻撃する悪から生まれているのに、その人が正義の心をもって戦う。そういうところが今回の大きな主題になっている気がします。
3つの国に分かれて、それぞれの国が自分が強くなろうとして仮面ライダーを兵器として奪い合う、「仮面ライダーは兵器である」というところ。ただその兵器自身は正義の心をもっているのでどう転ぶか分からない。そういった意味では、今だからこそ考えるべきテーマだという気はしますが、考え方を押し付けるつもりはありません。
――『仮面ライダービルド』は10月から放送時間が変更されていますが、そのあたりは作品として意識されましたか?
意識してもどうなるかわからないので、そこまでないですかね。放送枠が変わる4話から5話の橋渡しは意識しましたけど、そこまでは……。放送時間が変わるということよりも『エグゼイド』との差別化だけは特に意識していました。
――そもそもの大森さんと特撮作品の出会いについてお伺いしたいのですが、大森さんは特撮ヒーロー作品を見られていたのですか。
子供のときはもちろん見ていました。でも、特撮ヒーロー作品を東映がやっていると知らずに入社しています。映画会社だと思ってたんですよ。いや、本当に映画会社なんですけど(笑)。
――でももうドップリ浸かっていますよね。
そうですね。入社した時にやっていたのが『仮面ライダー555』(2003年)で、「仮面ライダーってまだやってるんだ」というのと同時に、『555』を見て「仮面ライダーってこんなおもしろいことをやっているんだ」と驚きました。ですので最初に『仮面ライダー響鬼』(2005年)に付けと言われた時は、今東映で一番おもしろいことがやれると思っていたので、それは楽しかったですね。
――最後に、大森さんが考える「仮面ライダー」像とは? また、仮面ライダーでもスーパー戦隊でもない、新しいヒーロー番組、ヒーロー映画を作る構想などはありますか。
ようやく僕自身が仮面ライダーとは何かっていうのをようやく理解しはじめたくらいのタイミングだと思うので、新しいヒーロー番組までは至っていないですね。最初に「仮面ライダー」を担当した『ドライブ』は、やっぱり「仮面ライダーってなんなんだろう」と模索しながら作って、完成したときにその意味を知ったという感じでした。
少しずつやっていくと、悪と善が表裏一体というか、切り取り方によっては悪にもなるし善にもなるというところがたぶんテーマなんだろうなというふうに感じてきました。そこは本当に現実世界もそうだなと思うのですが、そういうところを描いていければいいんじゃないか。一方で、やっぱり子どもがたくさん見る番組なので、最終的に人として正しいことは描かざるを得ないとも思いますが、悪も善になりうるというか、自分が善だと思っていることが必ずしも善じゃないということが表現できればいいのかなと思っています。