ビッグデータによる商品開発はどこまで有効なのか

今回のプロジェクトはビッグデータを使った商品開発ということだが、実際にデータを活用したと言えるのは6000万人中55万人まで絞り込むところであり、いわば約100分の1にふるい分けただけだ。その先の商品開発は、55万人からさらに立候補した565名、その中から選出された9名の方々のセンスが生かされたものであり、その大部分は人為によるものなので、あまりビッグデータとは関係ないと見ることもできる(完全に無作為な抽出よりは信頼性が高いだろうが)。完成品を試食した限りではプロジェクトは大成功だと思えたのだが、果たして他業種でも同様にビッグデータを活用できるのだろうか。

ビッグデータ活用と呼べるのは最初のふるい分けのみで、例えば商品の嗜好などについては完全に開発メンバーのセンスに依存するところが大きい

Tポイント・ジャパンの長島弘明常務取締役によれば、参加者の抽出にあたっては、「単純に魚介類の購買データだけでなく、Tカードが持つ食やエンターテインメントといった、ライフスタイル別のデータベースを利用し、これらを組み合わせて多角的な手法で選出した」という。具体的な手法については語られなかったが、食材以外の購買データや嗜好についても当然考慮に入れているということだろう。

ビッグデータを活用したマーケティングでは、データの量だけでなく相関関係の分析が重要だとされている。たとえば「魚をよく買う人」に「観劇する人」が多いからといって、直接の因果関係とは限らない。「魚をよく買う人」は「女性」や「主婦」が多く、ある程度自由時間が多いので観劇に行ける、という因果関係のほうが強いかもしれないわけだ。単純な数だけでなく、多角的にデータを集め、その関係を見つけることが重要だ。

Tポイントがこうしたデータの分析について独自のノウハウを形成しているかは、正直なところ明確な答えが得られなかったこともあり、若干疑問が残る。もちろん企業秘密に属する情報であり、簡単には明かせないところもあるのだろうが、まだ手探りで行なっている側面も大きいのではないのだろうか。いずれにしても人工知能(AI)と一緒で、まだまだ発展途上にある技術だけに、わずかな事例で評価するわけにはいかないだろう。プロジェクトの第二弾・第三弾と回を重ね、成功を収められるかに注目したい。