――医療従事者の方が健康維持や病気・感染症予防のために日ごろから実践していることを教えてください。

マスクや手洗いの徹底と可能な限りのうがいの励行です。手洗いに関しては、正しい手洗いは時間がかかることもあり、毎回の診療の度に行うのが不可能な場合もありますので、手指にアルコール塗布したり、アルコール綿で拭いたりします。診察台の上に消毒スプレーやジェル、アルコール綿が置いてあるのを見た経験がある方もいらっしゃるでしょう。余談ですが、ノロウイルスはアルコールで死滅しないため、適切な濃度の次亜塩素酸での消毒が必要です。

これらの診療時の基本的な予防動作に加え、病気・感染症の発症予防には何よりも自身の免疫力の強化が必要です。「サプリなどではなく、できるだけ栄養バランスの取れた食事で日ごろからしっかり栄養を摂(と)る」「できる範囲での運動も行い、体を鍛える」、そしてなかなか難しいのですが、特に感染症が流行するシーズンは、できるだけ「睡眠をしっかりとる」。この3つが免疫力を高めるために欠かせない三本柱になります。

――「免疫力増強のための三本柱」ですか。すごく魅力的な響きですね。もう少し詳しく教えていただけますか。

まず食事は、新鮮なビタミンや抗酸化物質の摂取のために、適量の果物や生野菜を食べましょう。野菜は量を十分に摂取するため、生以外の調理法で摂取することも大切です。そして免疫力強化や筋力維持のためには、動物性・植物性問わず、たんぱく質をしっかり摂ることも欠かせません。風邪をひいてしまった場合は、ビタミンB群もビタミンCも大量に消費されるため、それらも普段以上に摂取する努力をします。

運動に関してですが、時間があるときはプールで泳いだり、ジョギングをしたり、週末に緑の中を歩いたりといった、ストレス解消もかねてある程度の長時間運動ができれば理想的です。それが難しい場合は、短時間でいいので日常的に有酸素運動と無酸素運動を欠かさないようにしましょう。

一番簡単な有酸素運動は歩くことです。日常の歩数を増やすため、エレベーターやエスカレーターは利用しないで、短距離移動時のバスや車を使うことなく、歩く機会を意識的に増やしてみましょう。私の場合、スマートフォンの歩数計の数字を目安にし、歩数が少ない日は帰宅後に少し散歩するときもあります。

無酸素運動は、短時間でもいいので筋トレをできれば毎日欠かさずにしてみましょう。自宅や職場でのすき間時間に気づいたらスクワットをしたり、入浴の前後に一日30秒だけプランク(腹筋のポーズ)をしたりするだけでも十分効果があります。

最後に睡眠ですが、特に日本人は、働く世代も学生もおろそかになりやすいのが実情です。まずは睡眠時間を確保することが最も効果的です。夜に寝る時間がどうしても遅くなるようだったら、「夜間の睡眠環境を整える(清潔で寝心地のいい寝具、空気のきれいな静かな寝室など)」「昼間に可能な限り、数分でもこまめに昼寝をする」といったことを心がけましょう。

最後になりますが、以上の日常的、あるいは生活的な予防行動のほかに、毎年のインフルエンザの予防接種が道義的にも欠かせません。なお、医療従事者の場合、麻疹・風疹・水疱瘡・おたふく風邪の血中抗体値もチェックしており、抗体が不十分な場合は予防接種を受けていることをこの場を借りてお伝えしておきます。

※写真と本文は関係ありません


取材協力: 渡辺由紀子(ワタナベ・ユキコ)

国家公務員として、大学病院での消化器内科専門治療、各地医務室での総合臨床外来と健診・各種検診を通した職員の健康管理に長年従事。大学院では免疫学の研究を行い医学博士号を取得。

2児の母でもあり、色々悩み考えた結果、2017年度よりフリーとなり、各種外来・健康診断など、時に北海道から南の島まで全国に出張しつつ勤務しています。今後、予防医学・早期発見・早期治療の重要さを伝えるべく、講演や新聞・雑誌などへのコラム掲載にも力を注いでいく所存です。

En女医会所属。現在内科外来・健診クリニック・老健施設などで非常勤勤務。


En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。