今回、3社が提供するサービスは、荷物を持たずに手ぶらで自由に日本を楽しんでもらう「おもてなし型サービス」に位置づけられるものだ。
「訪日外国人旅行客にとっては、大型荷物を持ち運ぶことで、おみやげ購入をあきらめたり、施設への入場をやめたりといった機会損失につながっているほか、荷物が無くなったり、破損したりといった安全性の課題がある。また、宿泊施設では、外国人の大型荷物を預かるために宴会場を使用し、機会損失につながるという課題もある。さらに、大型荷物の持ち運びが日本人にとっても迷惑になるという報道もある」(古野氏)
これに加えて、日本での旅行中の荷物配送サービスを知っている外国人は28%にとどまり、利用者にいたってはわずか3.5%に過ぎないという。宅配大手のヤマトグループでも、旅行者の荷物一時預かり、スーツケースの配送サービスなどを全国50数カ所の受付拠点で日本人旅行者を中心に提供しているものの、「外国人には、自分の荷物を他人に任せるという習慣がない。そのために、外国人にはあまり使われていないのが実態」という課題があると丹澤氏は話す。
こうした課題を、おもてなし型サービスとして打ち出すことで、「今回のサービス開始に伴い、大切な荷物を、きちっと、正確に届けるサービスとして認知を高めることで、日本のファンを海外に増やしていきたい」(丹澤氏)という狙いがあるようだ。
また、インフラを担うパナソニックにとっては「ICT×観光」という切り口から、訪日外国人旅行者に対して、情報、言語、移動などの課題を解決するソリューションの展開をさらに拡大していく契機となりそうだ。
「地方への周遊拡大、個人旅行者の増加、体験・ニーズの多様化といった動きがあるなかで、入国から出国まで訪日外国人旅行者とつながり続けるICTを活用した観光サービスプラットフォームとして、TRM(Traveler Relationship Management)を構築している。これはJTBと共同開発した外国人旅行者を対象にしたクラウド基盤であり、LUGGAGE-FREE TRAVELは最初に活用するサービスになる」(パナソニック 執行役員 井戸 正弘氏)
サービス提供に必要な旅行者の情報を統合管理することで、TRM上でサイクルシェアや免税手続き、保険サービスなども組み合わせ、観光サービスを提供できるようにしていく予定だ。これはJTBにとって旅行事業者の枠を超えた展開を容易にする大きな武器となる可能性がある。
一方でパナソニックにっては、今回の協業は一つの分水嶺となりそうだ。デバイスも用意するものの、どちらかと言えばソフトウェアやサービス中心となる点で新たな挑戦といえる。こうしたビジネスモデルをどれだけ増やすことができるかが、今後のパナソニックにとっては重要な取り組みになる。今回の事業も、東京オリンピック関連事業で新たに創出する1500億円の売上のなかに含まれる。
2020年に向けてカウントダウンが近づいてきたが、異業種の企業がタッグを組んで新たなサービスを創出するといった動きは、これからもさらに増えていくだろう。今回の取り組みは、そうした動きの第一陣ともいえるものだ。企業連携によって今後、どんなおもてなしサービスが創出されていくのか、しばらくは発表ラッシュになる可能性もあるだろう。