一方、スペースを提供する三越日本橋本店は和の茶と同時に「ジュリス ティールームス」をオープンする。ジュリスは紅茶の本場、英国で優秀なティールームを提供した紅茶店を表彰する「TOP TEA PLACE」の賞を2008年に受賞した、宮脇 樹里氏がオーナーシェフを務める店舗。宮脇氏も週に2、3度は店頭に立つ予定で、本場の紅茶の楽しみ方を伝えるワークショップも開催する予定だ。
三越日本橋本店の田中氏はこれらの店舗展開について、「本場・本格・本物の価値を提供する」という百貨店ならではの魅力を最大限に活かすものだと説明する。日本橋という土地柄、顧客ターゲットは訪日外国人かと思いきや「我々が抱える優良顧客や、さらにその先の国内富裕層を狙いたい」(田中氏)。
実は、三越日本橋本店と同じ、三越伊勢丹ホールディングス傘下の新宿伊勢丹などはインバウンド需要によって好調な来店客数を誇るものの、「日本橋にはあまり外国人が訪れない」(田中氏)。日本茶専門店というコンセプトは、ふらっと立ち寄った外国人への訴求ポイントになるとは認めたものの、「基本的には頻繁に訪れていただくお客さまへの提案として用意した」(田中氏)。
現在、同社が定義する優良顧客は「半期で7回以上来店し、7万円以上の買い物」をする顧客だという。1万3000人いるこの顧客は、来店客数のうち7.1%に過ぎないが、購買金額ベースでは26.6%にも達する。しかも、好調な経済状況を背景に、この数年は優良顧客が二桁%を超える割合で成長しているといい「2020年までに2万人といった数字はクリアできるのではないか」(田中氏)。
"実験"で成果、トマトや甘酒が次の主役?
三越日本橋が進める「本場・本格・本物の価値提案」は、コンビニエンスストアやECには実現できないものだと田中氏は強調する。
同社はEC大手のAmazonと連携し、日本橋本店で提供する一部商品をPrime Nowサービスで宅配している。しかし、「物品を購入する"目的購買"はECなどで済むかもしれない。だが、体験価値を提供して『心を満たす』ことが三越に来ていただく理由、いい体験ができる場所としての三越を目指していきたい」とメリットを強調する。
お茶をコンセプトにした店舗を一気に2店舗オープンした背景には、数年前から続けている"実験"がある。
「2週間に1回、テーマを決めてお客さまに季節の食材などを楽しんでいただく催しを開催してきた。特に良い反応をいただいたのが、お茶やトマト。かつては衣食住の衣食に偏重していた顧客意識が、今後は"食"中心へと変化していくはず。『食楽』というただ食べるだけではない、食事を感じる体験の価値を見出していただけるような場にしたい」(田中氏)
飲食は、地下の食品フロアだけでなく、ほかの階でも利用者の回遊を目指す上で効果的に配置していると田中氏。今回の2店舗も、買い回りの休憩場所として設置することで、体験価値の訴求とあわせた"おもてなし"を突き詰めていく狙いだ。お茶やトマト以外にも、甘酒、ローストビーフといった催しが好評だったそうで、これらをどのように"体験"と結びつけるのか、三越の手腕が問われることとなりそうだ。