日本女性の社会進出が進まないのは、専業主婦に目が向いていないから

――薄井さんは著書の中で、もっと専業主婦を生かすべきと訴えられています

専業主婦の生かし方について語る薄井さん

いまの女性リーダーは、ずっと働き続けてきた人が多いですよね。そうすると、「あの人たちみたいにやらないと、私のキャリアはおしまいなのかな」って若い人たちが思ってしまうんじゃないかしら。

日本の女性の社会進出が進まないのは、専業主婦が蚊帳の外にいたからで、私はこの人たちを蚊帳の中に入れたいと思っています。

――具体的に考えられていることはありますか?

来年2月から、NYU(ニューヨーク大学プロフェッショナル教育東京)とコラボレーションして、専業主婦やシニアを対象にした観光業の学校を立ち上げます。いま、日本の観光業は人手不足ですし、特に外資系のホテルでは、一度仕事を始めれば、その後さまざまな職種につけるので、専業主婦のこれからのキャリアとしてはいいなと思いました。

転職したり、再就職したりするときは、誰だってトレーニングをするでしょ? でも専業主婦って終わった後に、誰もトレーニングしてくれません。専業主婦という素地があって、トレーニングすれば、働けるにも関わらずです。

教えるだけでは無責任だと思うので、人材派遣会社と話をつけて、インターンもできるようにしたの。就職できるように道を作ります。11月から生徒を募集します。

――行動に移されているんですね

若い人たちを安心させなくちゃ。専業主婦でも仕事に戻れますよ、せめてホテル業は戻れるよって見せなくちゃ。あなたたちは私くらいにはなれるわよ、安心してって。若い女性たちへのメッセージでもあるんです。

だからいまの50代女性は責任重大です。この年代ががんばらないと、道を作ってあげないと、若い人たちはつぶれます。私は専業主婦の中で決して特別な存在ではないんです。ごく平凡な生活をしてきました。だから、私ができたことを、同じ50代女性にもやってほしいと思っています。

――私たちの世代が、子育ても仕事も、自分が納得する形を選べたらいいと思います

いま30代の子育て女性たちが不安を抱えてしまうのは、子育ても仕事も選択肢がたくさんあるのに、自分の中のプライオリティがはっきりしていないからじゃないかしら。子どもも全部自分で育てたいし、お金も欲しいし、充実したキャリアも欲しいというのは、難しい。時間って1日24時間しかないんだから。

お金のために仕事をしているんだったら、お金をいっぱいくれる会社で働く。キャリアが欲しいんだったら、給料が少なくてもキャリアを伸ばしてくれる会社で働く。子育てに時間をかけたければ、ある程度、仕事は諦めなければならないかもしれない。バリバリに仕事、バリバリに子育て、そんなスーパーウーマンっているの? 仕事をして、人の手を借りながら子育てをしたっていいじゃない。

「仕事を続けてキャリアを目指せ」という世の中だけれど、既にワーキングマザーって一生懸命まじめにやっている。一生懸命やっている人に、これ以上一生懸命やりなさいっていうのはすごくかわいそう。ちょっと降りるという選択肢があってもいいでしょう?

もし子育てに専念したいけれど、将来への不安があるから仕事を続けているというなら、私が証明している。専業主婦からキャリアを積むことはできますよって。

『専業主婦が就職するまでにやっておくべき8つのこと』(1,620円・税込/KADOKAWA)

専業主婦として17年間の子育てを終え、空の巣症候群に陥った著者は、誘われてバンコクの小学校のカフェテリアで"給食のおばちゃん"として働くことになった。約2500人の子供達が押しかけ、混乱をきわめるカフェテリアの現状をみて、著者は予算に合わせたレシピを開発し、子供達が整然と楽しく食事ができるように誘導していった。やがてそこは評判のカフェテリアになった。
しかし、それは、長年、専業主婦として家族の献立を考え、子供を育ててきた著者にしてみれば、ごく当たり前のことだったのだ。「専業主婦はいかにマルチタスクの達人であることか」との確信を深めていく。その後、日本で電話受付のパート仕事を経て、ANAインターコンチネンタルホテル東京に入ると、3年で営業開発担当副支配人になる。そして現在は、5つ星のラグジュアリーホテルに勤務している。
2016年12月に、朝日新聞「フロントランナー」で、「主婦ほどクリエーティブな仕事はない」と、著者が紹介されると大反響に。本書は、就職という社会との関わりを切に願う主婦への厳しくも温かい応援歌。さあ、勇気を出して一歩前へ!