福島駅から阿武隈急行に乗って約20分。そこから徒歩10分の場所に、富士通のデスクトップPCの生産を行なう富士通アイソテックがある。

富士通アイソテック

年間100万台の生産規模を誇り、ここで作られたデスクトップPCは、「伊達モデル」として、国内生産ならではの品質と迅速な供給体制が特徴だ。また、富士通アイソテックでは、デスクトップPCのほかにも、PCサーバー、POS、プリンタなどの生産も行う。PC市況は、個人向けPC需要が低迷する一方で、法人向けPC需要が上向き傾向にあり、こうした需要変動にも柔軟に対応できるのが富士通アイソテックの特徴でもある。同社を訪れ、富士通のデスクトップPCの生産へのこだわりを追った。

風光明媚な土地に立つ、100万台規模のPC生産拠点

富士通アイソテックがある福島県伊達市は、伊達氏発祥の地として、また全国有数の桃の産地として知られる。西に阿武隈川、東に阿武隈高地を配する、風光明媚な場所だ。

2011年3月の東日本大震災では、震度6弱の地震に見舞われ、2日間に渡って、生産棟に立ち入りができないほどの被害を受けたが、約2週間後にはデスクトップPCの生産を再開するという底力をみせた。

現在、富士通アイソテックでは、富士通製デスクトップPCを生産。富士通製のPCサーバーとあわせて、年間100万台規模の生産能力を持つ。また、シリアルインパクトプリンタやサーマルプリンタを製造。同社が持つ精密加工技術を生かして、溶融金属積層方式を採用した金属3Dプリンタも独自開発している。2016年度からは、富士通フロンテックで行っていたPOSの生産も開始しており、生産品目を拡大させている。

富士通アイソテックではプリンタの生産も行っている

また、保守および修理の受託事業も担当。他社製PCや電機製品の保守、修理も行っているほか、敷地内には、PCやPCサーバーなどの使用済み製品の再資源化処理を行うエフアイティフロンティアもある。いわば、生産から廃棄までをカバーする体制を持った拠点だといえる。

生産ラインを間締め、柔軟な組立ラインに

国内のPC市場環境は、法人向けPC市場が回復基調にあるが、個人向けPC市場は依然低迷したままだ。また、富士通は、レノボグループとの事業統合を視野に入れたPC事業再編の動きもあり、これも同社の今後のPC事業を左右する要素となっている。

そうしたなか、富士通アイソテックでは、生産量の変動にも対応した柔軟性を持った組立ラインの構築と、生産性向上に継続的に取り組んでいる。

たとえば、富士通アイソテックが、2016年度から取り組んできたのが、生産ラインの間締め(省スペース化)だ。1人1人の作業スペースの考え方を見直すことで、組立ライン全体の長さを約3分の2にまで短くするというものだ。

富士通アイソテックのPC生産ラインではベルトコンベアを使用し、その上を組立用の作業台を移動させ、部品を組み付けて、次の工程の作業者へと移動させる仕組みを採用している。

その際に、実際の組立を行う「作業ゾーン」と、作業が遅れた時に追い込みをかける「追い込みゾーン」、そして、遅れた作業を別の人が支援してくれる「応援ゾーン」の3つで構成していたが、この3つのゾーンのうち、応援ゾーンを削減。これによって、全体のライン長を縮小した。

富士通アイソテックの生産ライン。写真は2017年8月に開催された、親子PC組立教室の一幕で、実際の生産ラインでPCの組み立てを完成させたところ

組立ラインを半分に縮小、さらなる費用削減を見込む

富士通アイソテックの岩渕敦社長は、「ラインを短くすることで、ライン全体の動きが見やすくなり、問題を発見しやすいというメリットが生まれる。PCは作業者による工数差が少ないため、すべての工程に応援ゾーンが必要というわけでもない。その点では、ラインの間締めに取り組みやすいともいえる。だが、その一方で、間締めを行うには、作業者が複数の作業を行える多能工化する必要がある。ラインの長さを短くするには、作業者のスキル向上が大きく関係する」と語る。

富士通アイソテックでは、社員のスキル向上に向けたトレーニングも実施。1台ずつ異なるPCを生産する混流生産体制を維持しながら、ライン長の縮小に取り組んだというわけだ。

もちろん、単にライン長を短くするだけが目的ではない。これによって、空いたスペースを活用。外部倉庫に保管していた部品をここに置くことで、倉庫費用の削減、物流コストの削減、タイムリーな部品供給というメリットにつなげることができた。

「間締めによる効果は1年間を見て検証することになる」と岩渕社長は語るが、これにより、倉庫費用や物流費用は4分の1にまで削減できると見込む。

さらに、今後は、PCの組立ラインを従来の半分にまで縮小するほか、POSの組立ラインにもこの考え方を横展開することで、さらなる効果を見込む考えだ。

こうした取り組みが富士通のPCのコスト競争力を高めることにつながっている。

富士通アイソテックの岩渕敦社長