――ハマスタを基幹スポットとして、市民参加型のスペースを創るということですね
そのために、2020年に向けたスタジアムの改修が今年から始まる予定です。先ほど(前編)もお話したように社員はかなり頑張ってくれていますが、収益力を高めるための物理的な制約があり、工事によってさらに制限される部分があります。
ただそれは、さらに知恵を絞ってノウハウを溜めて2020年以降に活かすパワーになると思います。その一例が「&9(アンド・ナイン)」です。
横浜スポーツタウン構想のパイロットプログラムとして始まった「THE BAYS(ザ・ベイス)」という日本大通りの拠点で運営しているカフェですが、アウトソースせずに自分たちで運営しています。
将来的にエリアマネジメントすることを考えた時、"経験"してノウハウを蓄積しないと、事業者がどういった設備、コンセプトを求めるのか、自分たちとしてもどういう事業者を選定すべきなのかを理解することができません。
球場外の施設は、球場内で勝手に人が飲食してくれる環境とは違うわけですから、来店してもらうための仕掛け、あるいは魅力あるフードメニュー、そして人件費などのコストがどれほどかかるのかということを自分たちで蓄えたい。これはプロ野球の球団が、球団以上の組織になるためのトライアルだと考えています。
――そういった"世界"を作れた後に、横浜はどう進化するのでしょうか?
横浜DeNAベイスターズがソフトインフラになる世界ですよね。何も箱モノが存在するだけではない。
夏はベイスターズ、冬はほかのスポーツ事業で横浜に来てもらって、お父さんはビールを飲みながら野球観戦、お母さんは近所のフィットネス施設でヨガを楽しんでもらってもいい。ランニングのコーチプログラムを用意して、近隣の"ベイスターズホテル"に泊まってもらって、合宿してもらうのも面白いでしょう。
一つ鍵として考えているのが訪日外国人です。例えば10年後にはミャンマーのGDPが非常に拡大すると言われています。実はミャンマーの方には鎌倉が人気なんですよ。そういった方にとっては、東京よりも神奈川県で観光を完結してもらうこともありえます。
羽田から直接横浜に来てもらって、日本で人気の野球というスポーツを堪能してもらう。スポーツ文化に触れて、スポーツバーでお酒を楽しみながら、卓球も遊べる。翌日は鎌倉観光して、あるいは箱根まで足を運んで温泉や富士山の景色を楽しんでもらう。
スポーツだけでなく、スポーツ・健康の産業集積が実現すれば、医療ツーリズムといったものも絡めて"横浜"の価値が非常に高まると思うんです。
――もはやディー・エヌ・エーという枠を超えた構想のようにも思えます
私はスポーツ事業本部の担当として、スポーツがディー・エヌ・エーのメイン事業になるという気持ちでやっています(笑)。
ディー・エヌ・エーに携わる前、プロ野球ファンだったんですが一時期見ることをやめていた時期がありました。その時期に南場さんにお会いして、時を経てこうした立場に就くことになって驚きつつもラッキーだと思いました。
南場さんは、ディー・エヌ・エーにおけるスポーツ事業の価値を純粋に認めていて、「DeNAブランド」を高めるものだと考えています。ただ、まだまだ横浜に根付いた球団になるためには努力しなければならないし、それを大きなビジョンとして地域に貢献しなければならない。
スポーツの力を信じ、そして可能性を広げていければと考えています。
ディー・エヌ・エーが持つ"DNA"を野球界に広げられるか
筆者は28歳、思春期から社会人にかけて「ベイスターズはBクラス」というイメージで見てきた。神奈川県出身ながら他球団のファンであり、横浜、あるいは隣接都市に住む知人も「ベイスターズファン」と公言する人は少なかったように記憶している。
しかし、横浜DeNAベイスターズになって何かが変わった。2014年に池田前社長にインタビューした際、池田氏は「プロ野球は普通の企業と変わらない」と語っていた。今回の岡村氏も同様に「企業は新しいチャレンジを繰り返して価値を創造するもの」と話した。
裏を返せば池田氏、そして岡村氏、さらに多くのプロ野球ファンが「プロ野球の球団経営は特殊なもの」という認識でいるのだろう。普通の企業のように新しいチャレンジをせず、普通の企業のように「お客さまファースト」をしてこなかった。それが、2004年に起きたプロ野球再編問題に繋がったことは誰もが感じている事実だ。
その後、再編の中心にいた楽天、そしてパ・リーグの各球団は経営の在り方を変えることに腐心し、セ・リーグに負けず劣らずの集客力を身につけるまでに至った。NPBのWebサイトで入場者数、1試合平均動員数が公開されているが、1試合平均1万人台のチームはゼロ、全球団が2万人以上を動員している(※9月14日時点)。これは、国内で随一のスポーツ・エンターテイメントであるポジションを譲らない"野球"の魅力を表していると言っていい。
しかし、岡村氏がインタビューで述べていたように、野球界は決して安穏としていていい状況ではない。ベイスターズの観客動員数の好調さは、ライトファンの動員以上に、コアファンの繰り返し観戦が寄与している部分がある。それは他球団も同様の傾向があるだろう。いわゆる「述べ動員数」ではなく実動員数の増加が求められる。
そこで用意されたのが「横浜スポーツタウン構想」というわけだ。これは単に大風呂敷を広げて手当たり次第ライセンス契約を増やそうというものではない。
ふとした瞬間にベイスターズが視線に入る、筒香嘉智選手が(仮に)メジャーに挑戦しても、近所の建物に広告があった山﨑康晃選手がいるからベイスターズを応援し続ける。そういった「常にベイスターズがいる」ことが、ベイスターズにとって、そして野球界にとっての価値につながっていく世界観を目指しているわけだ。
そして「プロ野球」というコンテンツの求心力をほかのスポーツへも活かそうというユニークさは、他球団にはない「ディー・エヌ・エー」ならではのものにも感じる。ベイスターズが確立し始めた「うちに閉じることなく、外の世界と繋がる」というWeb企業ならではの"DNA"が、野球界全体に広がっていくことを期待したい。