この10年弱、Bクラスが定位置だったプロ野球・横浜DeNAベイスターズ。クライマックスシリーズ(CS)に初めて進出する、11年ぶりの3位となった昨年の勢いそのままに、今年もCS進出へとひた走っている。前編に引き続き、球団社長の岡村 信悟氏に話を聞いた。
ホーム戦70試合で終わらない、365日の"地域貢献"
――(前編の横浜スポーツタウン構想の話を受けて)さまざまな産業とコラボレーションした"街"というのは、これまでの野球界にない考え方かもしれません
読売ジャイアンツさんは東京ドームを本拠地にしていらっしゃいますよね。
ジャイアンツという一大ソフトコンテンツがあり、本拠地である東京ドームは別の会社が遊園地やスパ、レストラン、ホテルといった複合施設を一体開発されて運営されています。
さまざまな形がある中で私達が目指すのは、自分たちですべてを開発するのではなく、街全体が"開かれた"形でエンターテインメント空間を作り上げることです。横浜スタジアムの隣にある横浜市役所が2020年に移転し、関内に空間が生まれる。2020年で言えば、横浜スタジアムは東京オリンピックの野球・ソフトボール競技の開催地でもあります。
そうしたタイミングで、野球以外も含めたスポーツ産業を集積し、スポーツに関連して「健康」や「教育」といった分野まで"文化"を広げられる可能性がある。文化が生まれれば、それは自然と人を惹きつけられる魅力ある土地になるんです。
プロ野球は、年間でおよそ70試合しか興業できません。365日、絶え間なくどのように横浜を活性化させるのかと考えた時、市役所跡地や日本大通り、大さん橋、山下町といった周辺地域まで含めて一体化した構想を、地域の方と作りあげていければと考えています。
――欧米のスポーツビジネスの話では耳にする構想です。ただ、日本ではここまで意欲的な話はなかなか聞かれません
プロ野球経営は50年間、そのスタイルが変わらないまま続いています。ですが本来、企業は新しいチャレンジを繰り返して価値を創造するものです。横浜DeNAベイスターズはこの5年間、従来の"プロ野球経営"を打ち破る方向性を示してきました。
もちろん、野球興業という本質は変わりません。ですが、大切なものを守りながらも、"巻き貝"として大きくしていく。それは、ディー・エヌ・エーというネット企業が、Web技術やAIを活用することで、最先端を意識しながらも伝統を飛躍させるという意思を持っているからです。
娯楽の在り方が変わりつつありますが、地元愛というものはまた別の話。その愛をスポーツで醸成していく。ほかの地域でもうまく展開できればと考えています。
――JリーグやBリーグ、そしてプロ野球でもカープやファイターズ、イーグルス、ホークス、そしてベイスターズと、地元愛とスポーツは確かに相性が良いですね
スポーツの基礎哲学のひとつの柱は地元愛だと思っています。さまざまなスポーツ産業で、幾つかの事例がある。例えば自社内で閉じてぐるぐる(経済を)回して売上目標に終始していては、疲弊してしまうんです。それを、よりオープンにやることで、誰もが循環の和に入れる、持ち寄れる場にしていく。
そういう仕組みを作れば、誰かのリーダーシップに依存する形のシステムではなく、長く持続成長できるプラットフォームになる。ベイスターズは公共財であり、ハマスタは公共施設、みんなのものなんです。より多くの人に参加してもらって、アイデアを出してもらって未来を創造する場を作る。そうすれば、「コミュニティボールパーク」というベイスターズの一つの理想が実現できると思っています。