空間確保と伸びやかなプロポーションを両立

CX-8のデザインコンセプトは「TIMELESS EDGY(タイムレス エッジー)」。普遍的な美しさと上質なデザインを通じ、日々の暮らしの中で豊かさや心地よい刺激を感じ続けてもらいたいと諌山氏は語る。一番のポイントは、3列目まで大人が座れる空間を確保しつつ、伸びやかで美しいプロポーションを両立した点だという。

マツダのSUVであることを示す「CX」シリーズに属するクルマなので、ややもすればCX-8は、単純にCX-5の全長を伸ばしただけのクルマになる危険性があった。しかし諌山氏は、CX-5を「ダックスフントのように」長くしただけのクルマにならないよう注意しつつ、ミニバンのような箱っぽさにも近づかないよう、色々な工夫を施したそうだ。

諌山氏によれば、例えばタイヤの間(車体の側面)の造形にも、凹凸やカーブなどを施すことで、緊張感のある印象となるよう工夫を重ねた。窓の形についても、普通であれば台形のような形になるところを、下からラインを跳ね上がらせたり、カーブをつけたりすることで、スポーティーで美しい感じを演出しているという。

マツダの諌山氏(左)と松岡主査

走りとデザインを優先しヒンジドアに

箱型ミニバンとの違いで分かりやすい部分として、CX-8にはスライドドアがついていない。それはなぜかと言うと、端的に言えば、スライドドアはマツダの思想に適さなかったからだ。

諌山氏によるとスライドドアは、ドア部分に抑揚やカーブをつけるとスライドする軌跡が描けなくなるため、どうしてもフラットな箱っぽいデザインになりがち。CX-8のように、車体の側面に凹凸などの意匠を施すのは困難なのだという。

スライドドアを選ばなかった背景には、スポーティーな走り味を犠牲にしたくないという思いもあった。スライドドアを取り付ける場合は、ドアの上部、中央部、下部に横方向に3本のレールを通す必要があるそうだが、これは重い部品であり、マツダとしてはクルマの上部に重いものを配置し、重心が高くなることを望まなかった。

通常のドア(ヒンジドア)だと、子供が乗り降りする場合などに隣のクルマにぶつけてしまうリスクがあるし、ボタン1つで開閉できる点など、スライドドアに利点があることは諌山氏も認めるところ。しかし、マツダとしては「走り」と「デザイン」を重視し、CX-8にヒンジドアを採用したとのだという。

スライドドアにしなかった理由は明快だ

3列シートのSUVは他にもあるが、3列目まで大人が無理なく座れるSUVという意味では日本にない商品だとマツダは自負する。こういったクルマを輸入車で探せばアウディ「Q7」などだろうが、価格帯が全く違う。ミニバンとも、既存の3列SUVとも商品性が異なるCX-8だが、市場の有無も含め、ビジネスとしての可能性をマツダはどう見ているのだろうか。