自己主張の道具としてハイラックスを再定義

「このピックアップトラックのたたずまい、ファッション性に興味を持ってもらえる方」。前田氏は、新型ハイラックスで掘り起こしたい新たな顧客層をこのように語った。こういった新規市場を創出することこそ、日本でハイラックスを復活させるもう1つの理由だ。

トヨタのCV Company所属でハイラックス開発責任者の前田昌彦チーフエンジニア(左)。ハイラックスお披露目の場に駆けつけた小橋賢児さんは、「多様性の時代と言われるが、(ハイラックスは)個性に合わせたカスタマイズの可能性」を感じさせるクルマだと話していた

エコカーやミニバンを街で多く見かける現代の日本。道路網の整備も行き渡っていて、オフロード環境を探すのもなかなか難しそうなこの国で、“あえてピックアップトラックに乗るカッコよさ”をトヨタは提示する。ハイラックスを、自己主張のための道具として、あるいはファッションを彩るアイテムとして、再定義しているわけだ。

前田氏はハイラックスで訴求したいユーザー層として、荷台にスポーツ用具(例えばサーフボード)を積んで出掛ける若者、ラリーなどのスポーツでクルマを使う人、悪路を走破したいと考えるピュアなオフローダー、以前のハイラックスを知っているアクティブシニア世代などを挙げる。

今、日本で、あえてハイラックスに乗るというライフスタイルをトヨタは提示する

実用性はないが、新たな市場はある?

全長5.3メートルを超えるハイラックスは、お世辞にも日本で乗りやすいクルマとは言えない。所有する場合は「1ナンバー」となるので、車検も毎年受ける必要があるという。荷台の荷物が雨の日には濡れてしまう点も含め、前田氏も「普通に実用性を問われればちょっと厳しい」と認めるが、それでも「不便だが、圧倒的に存在感がある」とハイラックスの魅力を語る。このクルマで新たな市場を創出できるか試したいというのが、復活の動機のようだ。

新型ハイラックスは旧世代車と比べると大きくなっているので、車庫スペースの制限などで、場合によっては既存ユーザーでも乗り継げない場合がある。その点に言及した上で、前田氏は旧型ユーザーの「半分くらい」が新型に買い替えてくれるのではと期待を示した。その上で、「そこから先は、お客様とトヨタで、このクルマをどう演出していくかにかかっていると思う。期待値を超える台数につながる可能性もある」とも付け加えた。

作業用の道具を積むとこんな感じだ

つまり、販売台数が期待値を上回るかどうかは、トヨタが提示する“あえてハイラックスに乗るカッコよさ”が、市場に響くかどうかにかかっている。前田氏は、クルマの電動化や自動化などのテーマで頻出する「クルマのコモディティ化」という言葉に触れつつ、「人とは違うクルマを求める層は確実にいると思う」とし、新型ハイラックスでクルマに個性を求める需要を開拓したいと意欲を示していた。