ニコン D850の概要
ニコン「D850」が9月8日に発売された。FXフォーマットのデジタル一眼レフカメラであるD850は、35mmフルサイズに相当する大きさの有効4,575万画素・裏面照射型CMOSセンサーを搭載。画像処理エンジンは「EXPEED 5」で、常用感度はISO64~25600。ISO32相当までの減感とISO102400相当までの増感に対応する。153点AFシステムは「D5」と同じ仕様となっている。ニコンダイレクトにおける販売価格は、ボディ単体で税込399,600円だ。
さて、D850と約1週間過ごしてシミジミと感じたのは、光学ファインダーを持つ一眼レフで撮影する楽しさを詰め込んだカメラだということ。少し格好付けて言うならば「写真する」カメラだった。「写真する」というのは「撮る」という行為そのものを言うのではなくて、被写体や日常を観察してその中にある特別な瞬間を切り取ること。その瞬間を発見する喜びを得ること。撮った写真と向き合うこと。そして誰かに見せてコミュニケーションすること。そうした時間の全てを楽しむことが「写真する」ということ。それでは作例を交えながらD850との時間を振り返ってみたい。
カタチの面白さを強調するためにピクチャーコントロール・モノクロームを少し硬めに調整して撮影した。とてもクリアでシャープな質感が素晴らしく、ハイライトからシャドーまでの階調性も申し分ない。マンションの外観を切り取った1枚だけれど、まるで別の世界の景色のようだ。AF-S 24-70mmF2.8E VR 焦点距離 44mm F8 1/200秒 ISO125 |
D850を手にとってみると、ニコンの上位機種らしく剛性感に満ち溢れていて、ダイヤルの操作性にしても上質感があり、ラバーの感触も良い。触れば触るほど「釘でも打てるんじゃないか?」という気にさせてくれるほどだ。
レリーズしてみると低振動かつ低騒音ながらしっかりと「撮りました!」という感じがある。先代のD810と比べると、絶対的なシャッター音量はそれほど変わらないが、D850はよりカメラらしい心地良い音質になった。レリーズ感とシャッター音は画質には関係の無い部分ではあるけれど、やはり一眼レフは、特に上位機種はこういう感触でなくては。
約0.75倍のファインダー倍率
ファインダーを覗いてみると、従来機種よりも大きくファインダー像が見える。これは、D850が約0.75倍というニコンのデジタル一眼レフ史上最大の倍率を誇っていることが理由だ。個人的な意見を言えば、ニコンのフラッグシップ機が頑なに守り続けている約0.72倍というのが、ひと目でファインダー全体を確認できる適正倍率だと考えているし、実際にバランスが良いように思う。だが、ニコンは敢えて少し大きく見える倍率を採用してきた。
ファインダー倍率について少し説明すると、倍率が小さいとパッと見で画面全体を把握できる一方で、被写体が小さく見えてしまうのでピントの確認は難しくなる。逆に倍率が大きいと被写体を確認しやすくなるけれど、画面全体をひと目で把握することは難しい。そういったトレードオフの関係性がファインダー倍率には隠れている。
開放F値がF2以上の明るいレンズでのMF経験を持つ人には、このシーンの難しさが想像できると思う。ピントを合わせたい部分のコントラストが低いとさらに難しくなるが、D850のファインダーはピントを確認しやすいので、MFでも合わせやすい。Ai Nikkor 35mm f/1.4S F2 1/125秒 ISO100 露出補正 +0.3 |
D850で30年前のNikkorレンズを使う
なので、D850にズームレンズを装着して撮影していると「クリアで大きく見えるのは良いけれど、パッと全体を見渡すにはちょっと向いていないかな」と正直に言えば感じてしまった。とくにズームレンズの場合は、ある程度ファインダーの全体を確認してズームとフレーミングを決定する必要があるからだ。
視点を変えれば、ファインダー像が大きく見えてピントがわかりやすいということには違いないので、マニュアルフォーカス (MF) の単焦点レンズを装着して、撮影を楽しんでみた。ニコンFマウントの良いところは、1959年のNikon F以降に発売されたレンズであれば、D850に装着して撮影できるというところだ (正確にはAi化された1977年以降のレンズじゃないと無改造では装着できない)。
今回使ったレンズは私物のAi Nikkor 35mm f/1.4S。初期型の発売はなんと1971年という歴史のあるレンズで、何度かのリニューアルを経て現在でも新品を購入できる。筆者の個体は中古で購入したので正確な製造年は不明だけれど、シリアルナンバーから推測するに1985~87年頃に製造されたものと思われる。製造から約30年の時を越えて、最新のデジタル一眼レフにそのまま装着できて絞り優先AEで撮影できるというのはとても感慨深い。