だが、こうした状況に異を唱えたのは交渉に名乗りを上げた1社である米WDだ。

同社は5月に東芝によるメモリ事業売却阻止のため国際仲裁裁判所に訴えを起こしたが、これは交渉の過程で他社がメモリ事業売却先に選ばれることを嫌ったためだ。同社が買収したSanDiskは、もともと2000年から東芝と共同でNANDフラッシュの共同開発を続けている。多くの知的財産を所有する一方で、製造関連設備などのアセットを東芝の工場に置いている。

人的交流も密に行われており、東芝の事業所にはいまだ多くのWD(元SanDisk)社員が常駐している。そのため東芝が事業を売却する相手によっては、これら資産の多くが意味のないものとなってしまう可能性がある。

このほか、Samsung対抗という意味合いも強い。NANDフラッシュメモリの世界では業界2位の東芝だが、大きな利益の源泉となるデータセンター向け製品などのコア市場をSamsung側では確保しており、今後WDが既存のHDD会社の殻を破って成長を続けるには、どうしてもこの領域に食い込む必要がある。

そのため、東芝との共有資産であるNANDフラッシュメモリ事業を手元に置いておくことはWDにとって必須事項だ。そもそもSanDisk買収の理由がここにあるわけで、東芝メモリをそのまま他社に取られてしまうとSanDisk買収が失敗ということで株主らの反発は避けられず、是が非でも自ら交渉を進めたいと考えるわけだ。

さまざまな意見や報道があるが、この買収交渉に最も社運をかけており、かつ本命なのがWDなのだと筆者は考えている。

最後は買収後の経営関与の割合で決定

東芝と企業連合との交渉の行方は……。東京都港区芝浦にある東芝本社

売却交渉が本格化した当初、その最有力とされて優先交渉が行われていたのが日米韓連合といわれるグループだ。BainCapitalとSK Hynixのグループに産業革新機構と日本政策投資銀行が加わり、日米韓の資本が組み合わさった形となる。この日米韓連合の交渉は6月中を目処に行われるという話だったが、最終的にまとまることはなかった。

もともと買収によってBainCapital、産業革新機構、日本政策投資銀行の3社が議決権を握る形態を模索していたが、本来は融資のみということで参加していたSK Hynixが議決権要求へと傾いたため交渉が難航しているという話が、7月に入ってから聞こえてきた。

SK HynixはNANDフラッシュ業界で東芝のライバルにあたるものの、目下の最大の共通のライバルはSamsungであり、これを機会に何らかの影響力を行使できるかと考えたのかもしれない。

後に交渉が停滞したのを受けてSK Hynixが軟化姿勢を見せたようだが、8月後半に入って東芝が交渉先をWDに切り替えたという話が入ってきた。おそらく、当初決着予定から2ヶ月が過ぎて交渉が長引く気配が強まったため、係争中のWDを巻き込んでリミットまでの交渉を一気に進めようと考えたのだと思われる。

WDは当初からKKRと組んで交渉に望んでおり、最終的に産業革新機構と日本政策投資銀行がこのグループへと鞍替えして新しい日米連合を組織して東芝との交渉に臨むことになった。

執筆時点でこの"日米新連合"を軸に話が進んでいるようだが、最終的にWDがどのような形で関与するのかが鍵になっているようだ。