アイスを手にした"村人"があちこちに

「東京交通会館」には多くの物産館が入っていて、目移りしてなかなか進みません。「アイスクリームをなめている人が多いなぁ」と思っていたら、「北海道どさんこプラザ」をはじめ7店舗でアイスクリームを販売しているそう。進む度にアイスをなめてる"村人"に遭遇する、不思議な旅となりました。踊り場のモザイク壁画を眺めながら、いよいよ地下へ。ザッザッザッザッ。

地下1階は、個性豊かな店舗がひしめく地下街です。その数71店舗。ご当地居酒屋に洋食、中華、喫茶店、医院、お箸の専門店に時計店と様々。ギャラリーが多いのも特徴です。ちょうど画廊「ゴールドサロン」で「幻獣展IV」が開催中でしたのでのぞいてみました。大変な混雑ぶりで、美しいファンタジー作品にダンジョン気分も最高潮に。次々と現れる"モンスター"(おいしそうな匂い)から逃げながら、地下ダンジョンを奥へ奥へと進んで行きます。

おいしいスイーツも食べてHPも満タン! 地下1階の奥に今日の最終目的地「后バー有楽(さきバーうらく)」があります。

やっぱり気になるのは「女将の隠し酒」

「后バー有楽」は、2011年開店の日本酒専門バー。日替わり女将がおいしい日本酒を提供してくれるお店です。本日の女将は山内聖子さん。半円形のカウンターにひとりがけソファーが7脚。早目の時間ですが、ダンディなお客さまがひとりお酒を楽しまれています。「こんばんは。おじゃまします~」。

日本酒をワイングラス(90ml)で提供していて、お燗の場合は180mlとのこと。テーブルチャージ500円(ミネラルウォーター付き)。お酒は600円からと、リーズナブルでありながら、ゆっくり日本酒を楽しみたい人に似合いそう。

「大人のレモンスカッシュ」(600円)は強炭酸でいただきたい

ふと見るとかわいい張り紙があるので、僕は日本酒ベースの「大人のレモンスカッシュ」(600円)を。担当Mさんは「獺祭 無濾過純米大吟醸生 磨き三割九分 槽場汲み」(1,000円)を。お通しは「オクラとアカモクのあえもの」をいただきます。さてこの後、シラサキは銘柄の紹介や解説はいたしません。どうぞクイズ形式でお楽しみください。

メニューをじーと見て質問する担当Mさん、「ちなみに『女将の隠し酒』というのは?」と質問。「隠し酒は……」と言いながら、ガツンガツンと一升瓶を掘り出してくる山内さん。

山内さん「いろいろあるんですけど、うちはこの『●●』という島根のお酒と、『●の●』という熊本のお酒。こちらが『●田』という佐賀のお酒で、ちょっと西側ばかりですけど」

お客さん「あ、せっかくだから……『●●』を」

カッコイイ頼み方だなぁと思いながら、僕は「大人のレモンスカッシュ」をクイクイ。ひとりふたりとお客さんが増えていきます。

シラサキ「女将は日替わりですが、お酒は日で変わるのでしょうか?」

山内さん「隠し酒は色々ありますが、基本的にメニューは一緒です。女将によって、つまみが出たり、乾き物だったりです」

山内さん「私は仕事柄、酒蔵や地方に行くことも多くて、みなさんの反応を見たいので、気になるお酒を担いで持ってくることもあります。本当の意味で『隠し酒』です」

女将の職業は様々で、日本酒好きでつながっているとのこと。山内さんの名刺をじーと見ながら「名刺に『呑みます』って書いてあるの、いいですね!」と担当Mさん。山内聖子さんは、「呑みますライター」、利き酒師として、日本酒を中心に多くのメディアで活躍されているライターさん。雑誌連載も多く、著書『蔵を継ぐ』(双葉社)は、同世代の蔵元の素顔に迫るノンフィクションです。

担当Mさん「日本酒の仕事をしてみたいと思われたきっかけはあったのでしょうか?」

山内さん「いつも聞く立場なので、なんか緊張します」(質問にドギマギする山内さん)

山内さん「15年くらい前に飲食で働いていたんです。それまでは日本酒を飲んだことなくて、知らなかったんですけど、働いていたお店がたまたま日本酒を80種類くらい扱うお店で、そこで日本酒に出会って。たまたま女将に一升瓶の底に残った大吟醸を『もう出せないからこれ飲んでみる?』って勧められて、もう、すごく好きになってしまって。そこからは日本酒一色で、もっと広めたいと思いつめてライターになりました」

ライターでお酒好きになる人は多くても、日本酒を伝えたいからとライターになったのは珍しいと言われるそうです。お隣の席では、最近の蔵元さんはイケメンぞろいだと盛り上がっています。ここでおつまみに「きゅうりの辛子漬け」と「きゅうりと鳥の炒め煮」を。お酒は「●田」をいただきます。おつまみはお母さまの手作りとのこと。なんて大きなきゅうり! キュウリの皮も蒸し煮になっていて、おいしい~。ボリボリボリボリ。

つまみメニューは女将さんによって異なる。取材時は山内さんのお母さまお手製の「きゅうりの辛子漬け」

シラサキ「お仕事とお店の両立で苦労されていることはありますか?」

山内さん「お店の後、夜に原稿を書くこともありますし、お店の前に取材だったり、出張帰りで羽田からそのままお店に来ることもあって。体力的に大変な時もあるのですが、お客さんが来てくださるので、毎週力の続く限りお店に立ちたいなって」

担当Mさん「お店でのモチベーションといいますか、一番の楽しみがありましたら教えていただけますか?」

山内さん「飲んでいる人の本音が見られることかも。普段いろんな酒場に行きますし、取材でお話を聞くのですが、みなさん飲んでいる時は素なので、本当の今の、飲む人の気持ちが分かる……。楽しいし大事なことだなって、書く人として」

山内さん「飲み手として、書き手として、もちろん飲む人の気持ちをいつも考えているのですが、実際に注いでみないと分からないことがたくさんあって……。お店を6年続けていると、常連さんや『今日は行くよ』っていうお客さんがいて、頑張らなきゃって。純粋にお店の仕事が好きなんです」

気が付くとお店は満席。時間が来ましたので、お礼を言って会社に戻っていく担当Mさん。僕はもう少し。


なぜだかニヤニヤしながらお酒の話をしている女将。赤い灯りと、ソウルフルなナンバーで日本酒をいただく。なぜだか静かで、どこでもない時間。深くて果てしない「日本酒・愛」がずっと続きますように。

●information
后バー有楽
住所:東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館 B1F
営業時間: 月~土曜日16:00~22:30(L.O.22:00)、日曜日15:00~21:00(L.O.20:30)
定休日: 不定休

今回はこんな感じで歩きました!

日本酒クイズの回答
・「●●」という島根のお酒……「月山」(吉田酒造)
・「●の●」という熊本のお酒……「花の香」(花の香酒造)
・「●田」という佐賀のお酒……「七田」(天山酒造)
・「レモンスカッシュ」で使っているお酒……岐阜県「初緑」(奥飛騨酒造)

筆者プロフィール: シラサキカズマ

1966年広島県生まれ。筑波大学芸術学群洋画科卒業。1990年よりイラスト、キャラクターデザイン、アニメーションと幅広く活動。「シュール&ピース」なキャラとポップな世界観が特徴。代表作「ミカンせいじん」。オフィシャルサイト「mikan-seijin.com」