俳優の存在感は「確かにすごい」

――そういうことから宮野さんら声優陣もバランス良く配役されているのですね。

そうです。宮野さんは他の作品でも役者さんの間に入って、上手にやっていた経験があったらしいですね。川村さんがプロデュースした『バケモノの子』(2015年)が良かったというので、彼に決まりました。実は、今回は先に宮野さんも含めたメインキャラ3人を2日間かけて録ったんです。他の声優さんたちの収録は、随分間が空いた後になりましたね。

――ではメインキャスト3人が並んだ時にどのような感触をいだきましたか。

宮野さんが役者寄りの芝居をしていたので、違和感は全然なかったです。彼は演技の幅が広くて、声優芝居じゃない自然なものもできるし声優ボイスもこなせる。そういう人が、間にいてくれると良いなと思いましたね。それと俳優さんたちの存在感は確かにすごいな、と。

――それは声だけでも違うのでしょうか。

そうです。例えば、あるキャラが一言話すとしますよね。その後、そのキャラが喋らなくても、何かそこにいるような雰囲気が出るんだなと思いました。

広瀬は自然、菅田はフレッシュな演技だった

――なるほど。では具体的なところで、広瀬さんの演技はいかがでしたか。

すごく自然な感じで良かったです。だから絵の方もそれに引っ張られて、自然体のような感じが出ているんだろうな、と。

――菅田さんとのバランスはどうでしたか。

良い感じでやっていたんじゃないかと思います。彼も普通の声優さんたちがやるようなリアクションではなかったりして、フレッシュでした。「アニメはもうちょっと型にはまっているんだな」と改めて思いましたね(笑)。

脚本は「よりリアル」で「すごく新鮮」

――型が違うという意味では、今回、実写畑のスタッフと共に制作する上で新たな発見はございましたか。

脚本に関して言えば、これまでのアニメでやってきたようなものではやはりなくて、より現実的でリアルな会話でした。芝居を見てみて「結構面白いな」と思いましたね。セリフもアニメだと、どうしてももっと型どおりになっちゃうので。

――説明調ということでしょうか。

うん、そうですね。会話自体が説明調なのかも知れない。(普段は)そういうのがほとんどだったところ、今回はリアルな受け答えが入っていたので、すごく新鮮でした。

――それは俳優さんを起用したことから、実写に近いセリフになっているところもあるのでしょうか。

シナリオの前に役者が決まっていて、大根さんの脚本が当て書きしたような感じだったんです。だから、もしかしたらそういう部分があったのかも知れませんね。

大きかった宮野の存在「間に入って上手くリードしてくれた」

――脚本も普段とは違って、演者も違うとなるととても難しいようにも思えてきます。このキャストの演技に驚かされたというのはございましたか。

主役2人は面白くて、声の張り方も声優的なものではなくて、すごく生っぽくて良かったです。全体的に(キャラが)そこにありのままいるような感じで声の芝居が成立していました。例えば、声優さんは驚いた時にもうちょっと露骨になるのですが、彼らはそうでなかったんです。「そんなにも(声で)驚けない」と言っていました。菅田さんに関しては、病院のシーンで上ずった声を出すところで「独特なリアクションだな」と感じましたね。新鮮でした。

――印象としてはすごく自由にやっていたような感じでしょうか。

そうですね。まとまりも非常に良かったです。それに宮野さんの存在も大きくて、彼が2人の間に入って、上手くリードしてくれた部分もありました。ムードメーカー的な感じで立ち回っていただきましたね。また組んでみたいです。忙しい人らしいですけれども(笑)。

俳優陣のキャラ解釈には「違和感なかった」

――新房監督としては生っぽさと演技っぽさ、どのあたりのラインを求められたのでしょうか。

それよりも期待したのは、キャラクターの解釈かな。できるだけ役者本人たちの解釈でやってほしいと思いましたね。あまり演技指導が入らないくらいの方が面白いと感じました。

――とすると、じっくりとアドバイスされたという感じではなさそうですね。

武内宣之監督の方は芝居上のことは言っていましたけれど、僕としては、大枠は本人たちの解釈からの演技を優先しようと思いました。

――それぞれの解釈は新房監督の目線でもピッタリでしたか。

あんまり違和感なく、「こういう風に思ってこういう風に喋るんだ、新鮮だなぁ」と珍しいものを見るように観察していました。大根さんの脚本が自然な言葉遣いだったから、尚更なのかも知れないですね。

皆一緒に収録するのが難しければ「その場にいてくれる人が良い」

――俳優さんたちの自由な解釈からの演技と宮野さんのような声優の方の演技のバランスを整えて作品を成立させるのは、すごく難しいようにも思えます。

そこに関しては宮野さんも似たような……声優ボイスじゃない方向での芝居で2人に寄り添っていたので。その後、声優さんたちが録る時も宮野さんはいらしていて、彼の残りの部分をメインに録りましたし、集まった声優さんたちも3人の芝居は聞いていますから、随分と生っぽい芝居になりましたね。だから「あぁこうなるのか」と面白かったです。音響面に限って言えば、その生っぽさが作品全体の空気を決めていると思います。

――特にこの役者さんのこの演技に注目! というアピールポイントはございますか。

典道が溺れていく場面ですね。菅田さんが、宮野さんから「ブクブクブクって音はこうして出すんだよ」と教えてもらったテクニックを駆使していました。

――最後に、これから新房監督が新しく作品を制作する際に、今回のように俳優さんや女優さんを起用してみたいと思われますか。

そうですね……皆が一緒に録れる現場であるならば、そういう場合があっても良いなとは思います。今回は宮野さん含めた3人と、残りの声優さんたちは別日になったんだけれども、皆一緒の場で録れるとなお良いですね。普通のTVアニメでも新しい可能性を探りたいとは思いますけど、なかなかスケジュールの面で一緒に録るのが叶わないのであれば、やっぱりその場にいてくれる人の方が良いです。今回のように他のキャラとほぼ絡まない場合だったら良いとも思いますけど、その人がいないまま進めると、(芝居の)間があんまり分からないだろうから、その場で聞きたいと言う気はしますね。

■プロフィール
新房昭之
福島県出身。1994年公開の『メタルファイター□MIKU』(□はハートマーク)でアニメ監督デビュー。2004年以降は、アニメーション制作会社・シャフトを拠点に活動しており、『〈物語〉シリーズ』や『さよなら絶望先生』シリーズなどを手がけてきた。2011年に放送されたTVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』が深夜帯の作品としては異例の大ヒットを記録。第15回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で大賞を受賞した。近年はTVアニメ『3月のライオン』シリーズでメガホンを取っている。本作もシャフトとタッグを組んで制作した。

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