マイナビニュース編集部に届いた「何故、アニメ映画の声に声優ではなく役者を使うのか」という読者の疑問。『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)や『思い出のマーニー』(2014年)を手がけてきて、自身の3作目となる監督作『メアリと魔女の花』が公開中の米林宏昌氏からは「実写とアニメの中間くらいの芝居がほしい」という意見を聞くことができた。その一方、この問題は紋切り型に「こうだからだ」といった回答一つではなく、様々な答えを用意する必要があるように思われる。他のアニメ監督はどんな思いを持っているのだろうか……。

今回、取材に応じていただいたのは、総監督を務めたアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』が8月18日に公開を控える新房昭之氏。本作は、映画監督・岩井俊二氏の原作ドラマをもとに、実写畑で主にメガホンを取ってきた大根仁氏が脚本を執筆、女優・広瀬すず(及川なずな役)、俳優・菅田将暉(島田典道役)、声優・宮野真守(安曇祐介役)がメインキャラクターの声を務めるほか、松たか子(なずなの母役)も出演している。これほど"役者"と"監督"たちが集まった背景には川村元気プロデューサーによる企画があったというが、揃った"役者"たちをまとめ上げ、一つの大作として成立させたのは、新房昭之監督だ。これまで、大ヒットを記録した『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズやTVアニメ『3月のライオン』シリーズなどを生み出してきたことで知られる新房監督。彼は、この様々な才能が入り交じるプロジェクトを前にどんな思いを抱き、どのように映画を完成させたのか。また、普段とは異なる"役者"陣、スタッフたちと向き合っていく内に見えてきたものは何なのか。これからも俳優たちを起用するのだろうか。今回も"声"を主なテーマとして、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の製作を振り返っていただいた。

岩井俊二氏&大根仁氏に同世代の「仲間意識感じた」

――最初に本作の制作オファーが来た時、どのように感じられたのかをお聞かせください。

実写作品をアニメ化するという話だったので、不思議な感じがしましたね。ピンと来なかったと言うか「どうするんだろう?」と。岩井さんや大根さんと3人で初めて会った時は、実写をやっている人たちだから畑が違うということで、緊張していました。でもあんまり年代が変わらなくて、昔読んでいたものや観ていたものも一緒で「あぁ同じような人たちだ、良かった」と仲間意識を感じました。その時には、具体的な制作の内容ではなくて、昔の漫画の話ばかりしていましたが(笑)。

――原作ドラマ自体はご覧になっていましたか。

(90年代)当時、録画したビデオを友達に見せてもらっていたような……でもずっと昔だったので、あまり覚えてはなかったんです。今回、改めて観ました。

原作ドラマの完成度に「アニメでやる?」と驚き&戸惑い

――久しぶりに鑑賞されて、いかがでしたか。

すごくよくできているし、良いなと思いました。場面の切り取り方も独特ですし、「これはアニメなどでは全然表現できない映画的な作風だな」と。我々の目で見たら普通に見えるものを「こういう風に見ると違うんだよ」と、違う観点で見せてもらっている感じがしました。だから「アニメでやるんですかね?」という驚きや戸惑いがありました。

――そんな戸惑いから、アニメならばこうしたい、アニメだからこそこう描いてみたいといったことは考えられましたか。

まず川村プロデューサーはじめ色んな人とどういう風に作っていくのか話し合わないといけないので、あまり自分だけで妄想を膨らませることはしなかったです。その時は漠然と「アニメ的な方向で話を作っていくのか実写原作に準じていくのか、どちらが望まれているんだろう」と思っていました。そこから、大根さんの脚本を読んで「あぁ原作に近いイメージなんだな」と理解しました。

意識したのはなずなの神秘的な可愛さ「その1点につきる」

――そのイメージからアニメ的な表現に落とし込むまでに、ヒントになるものはございましたか。

川村さんの方から「(キャラクターデザイナーの)渡辺明夫さんのキャラでいけないか」と提案があった時に、「そうか」と。彼の描く女の子は存在感がありますから。ヒロイン像が見えたことで、どのようにアニメにするかの方向性が分かってきた感じはしますね。全体を通して意識したのは、なずなというキャラの存在感です。原作と同じで、神秘的で可愛く見えなければいけない。(重要な点は)ほとんど、その1点につきるんじゃないかと思いました。

――ご自身が考えるなずなの魅力はどこだと思いますか。

男から見ればよく分からないところですね。神秘性もそうですが、ちょっと近寄りがたい感じを出しつつ、魅力的に見えれば良いかなと考えました。

――原作のメインキャラたちは小学生でしたが、本作では中学生に変わっていますよね。そのことで、なずなも元々もっていた艶やかさがより強調されているように感じました。これは意図されましたか。

中学生にしたのは、どちらかと言えば男の子たちが小学生だと、どうしてももう少し子供っぽくなってしまって、アニメの脚本で芝居をさせ辛いという問題があったからなんです。それに小6と中1って微妙な年齢差なので、中学生にしてもらいました。あれくらいの頃は女の子の方が大人びていて身長も高かったりしますから、ギリギリ原作からズレないだろうなとも思いましたね。精神年齢もまだ男子の方は子供っぽいですし。そんなところから艶やかさが増して見えるところもあるのかも知れないですね。

祐介は主役タイプ、典道は大人っぽい

――ではキャラとしての典道と祐介にはどのような感触を抱いていらっしゃるのでしょう。

典道より祐介の方が、主役になりそうなキャラなんですよ。思ったことをすぐ行動に移したり言ったりとかね。典道の方が一歩引いて観察しているところがあって、ちょっと大人っぽい。その対比が上手く出ればと考えました。多分、なずなも身長差はあるけれど、典道の方が大人っぽく見えたんじゃないですかね(笑)。

――2人の対比が際立つ場面はどこだと思いますか。

そうですね……(長く考える)他愛もないようなところだと思うんですよ。告る告らないとか(なずなと花火を見に)行く行かないだとか。そういう部分で祐介は男の子っぽい感じが出ているかな。それに対して、典道はなずなと花火を見に行く選択をし、色々考えている。そんなところかなと感じます。気にかけたのは、典道が、なずなが連れ戻されそうになっているところを必死に阻止する場面です。あそこで初めて典道が主人公として機能する。観ている人も(物語に)入っていけるんじゃないかという部分も含めて好きですね。

――ちょっと引いて見ていた典道が、自分からなずなたちの関係に介入していく場面ですね。でも男の子の目線だと、なずなは謎めいているように映る……先程、神秘性と仰いましたが、そんな謎めいたヒロインを描く秘訣はどんなところにあるのでしょう。

アニメ制作は共同作業なので、描き手の方に何か意思があるとそれが強く出ることもあります。だから、もしかしたらそういう(謎めいた)女の子を描くのにすごくこだわる人が多く揃っていたのかも知れないですね。実際、自分が思いもしなかったところがそういう風に見えたりすることもありました。あと今回はアフレコが早く終わっていて、声の方が先に用意できていたので、それを聞きながら作画することで芝居に引っ張られると言うか……結構、影響が出ている部分もあるのかも知れないです。

キャストは「声優さんで良いんじゃないかとも思った」

――声のお話が出てきましたので、ここで読者から届いた「なぜアニメ映画の声に役者を使うのか?」という疑問をぶつけてみようと思ったのですが、本作では川村さんが広瀬さんらを起用しようと考えられたのですよね。

そうです。メインキャラは川村さんにお任せしました。まぁ声のサンプルを聞いたりはしましたけれど。

――では、新房監督としてはどの程度までキャスティングに関与されたのでしょう。

広瀬さんが主役をやっているドラマ『学校のカイダン』(2015年)がちょうど放送されていた時に、川村さんから「観てもらっていいですか」と言われました……が、声を意識しては観てなかったです(笑)。だから声優さんで良いんじゃないのかなとも思っていましたね。