Appleは、Microsoftが作り出した2-in-1やデタッチャブルタブレットを否定してきた。複数のモノを同居させても、中途半端なものにしかならない、という考え方を示しており、特にMacへのタッチスクリーン導入を避け続けている。
iPadが遅滞している間に、競合していたタブレットメーカーは、Microsoftのトレンドに乗り換える動きも見られており、タブレット市場自体が縮小するとの見方も根強い。しかし、Appleとしては、製品の一般的なカテゴリの切り方は、大きな問題ではなかったかもしれない。
Appleの製品ラインアップの中で、「生産性」における中核を担っているのはMacだった。特にクリエイティブ系に人気のあるコンピュータでもあったが、数年来の停滞で、スペックと価格の両面から、Windows PCへの移行の動きを作り出してしまっていた。
しかし、iPhoneが主体のビジネスを展開しているAppleにとって、MacはiPhoneアプリ開発に必要であるため、有機的に成長していく手立てを獲得している。にもかかわらず、Macの発展に力が入っていないと、投資家やユーザーからの指摘が続いていた。
AppleはWWDC 2017でiMac/MacBook/MacBook Air/MacBook Proをアップデートし、iMac Proをアナウンスするなど、Macをきちんとメンテナンスしていく姿勢を示した。特にビデオやVR編集にも対応するスペックを、iMac Proでなくても備えている点をアピールしたのは印象的だった。
Appleは、アプリやコンテンツを「作る道具」としてのMacラインアップを明確にしたことで、iPadのポジションがどういうところにあるのか打ち出しやすくなったのではないだろうか。
すなわち、iPadは、Macがカバーする以外の日常的なあらゆる作業のための最も身近なコンピュータ、という位置づけだ。これは、古いPCのリプレイス、というコンセプトとも共通するテーマと言える。このコンセプトの実現は、iOSアプリの開発をより活発にすることにつながり、やはりMacの成長にもつながることになる。
iPad Proの成長は、販売台数の増加幅と、売上高の増加幅のバランスから見ていくことになる。2017年第4四半期決算、さらにその次の2018年第1四半期決算で、このあたりの数字を見ていけば、iPad戦略の第二段階への移行と、下落トレンドの解消を確認することができそうだ。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura