さて、UDデジタル教科書体フォントについては、日本マイクロソフト Windowsプロダクトマネージャー 春日井良隆氏と、モリサワ 公共ビジネス推進課 橋爪明代氏が説明した。UDデジタル教科書体はタイプバンクのUD(ユニバーサルデザイン)書体シリーズの1つとして、慶応義塾大学 自然科学研究教育センター 副所長/教授 中野泰志氏の協力により、開発されたフォントである。
タイプバンクはモリサワに吸収合併されたため、現在はモリサワの扱いとなるが、気になるのは「なぜWindows 10に標準搭載したのか」という点だ。MicrosoftはWindows 10 Insider PreviewでUDデジタル教科書体フォントの採用を明らかにしているが、その理由を述べていない。日本マイクロソフトは「より読みやすい日本語環境をお届けする。そして日本のICT教育へ貢献」(春日井氏)するためと説明するが、その背景にはフォントデザインにおける設計思想によって異なる字体・字形があるという。
通常の教科書には教科書体が用いられるが、橋爪氏は、字形が楷書体に近いため筆文字がベース。そのため線の強弱が視認を妨げる傾向があり、画数が増えると視認性はさらに低下すると述べる。単純にゴシック体・丸ゴシック体を用いる発想に対しては、「教育用に開発されたフォントではないため、教育現場で不都合が発生する」(橋爪氏)という。
下図はその違いを示したスライドだが、通常のゴシック体では画数や書き順を学びににくく、実際に書く場合と異なるケースが多い。「教師が正しく書き方を教えても(ゴシック体では)伝わりにくい現状がある。だからこそ学習指導要領に準じた字形」(橋爪氏)としてUDデジタル教科書体が重要であるとした。
モリサワは、中野氏と共同研究を行う生徒や教師など、241人から科学的根拠を取得している。例えばタブレットで各社の教科書体と比較した結果や、教師・生徒に対するアンケート調査をもとに、UDデジタル教科書体が現時点でもっとも優れたフォントであるとアピール。今後も、弱視やディスレクシアに対する検証を続けていくとした。
一連のプレゼンテーションでは「なぜWindows 10に標準搭載したのか」と疑問が解消されなかったため、日本マイクロソフトに訪ねたところ、UDデジタル教科書体を採用するきっかけは、前述した大島氏が最初に提案したという。「そこに日本マイクロソフトのエンジニアなどが参加し、米国本社を経て採用に至った」(春日井氏)と、日本主導であることを明らかにした。また、Windows 10は遊明朝・遊ゴシックを採用してきたが、あくまでも今回は教科書体の追加にとどまるという。「(DO-IT Japanのプログラム会場を指しながら)この子たちが筆を使う場面は遠く、明朝体は縁遠い存在」(春日井氏)としつつ、モダンなICT教育環境をWindows 10で実現するためのフォント採用であると話した。
振り返ってみると今回の取り組みは、昨今多くの場面で掲げられる「働き方改革」と共通する部分がある。それはIT技術の利活用で発生する新たな可能性だ。ハンディキャップを持つ方々にも、IT技術が可能性や新たな価値を提供する存在であることを改めて証明したのではないだろうか。
阿久津良和(Cactus)