同工場を訪れてみて、いくつか驚きがあった。
まず、神奈川県・藤沢市という立地。ワインというと山梨県や長野県といった、山に囲まれた地域で生産されるものというイメージが強かった。だが、藤沢といえば“海”。江ノ島や鵠沼(くげぬま)海岸といった人気スポットを市内にかかえる、まさに“湘南”だ。正直、ワインのイメージとは直結しない。
さらに驚いたのが、神奈川県がワインの生産ナンバーワンということ。てっきり、山梨県だと思っていたが、その山梨は2位ということだ。しかも、メルシャン藤沢工場による生産量が、神奈川産の90%以上を占めるのだという。つまり日本最大のワイン製造工場といえる。
なぜ、この地にワイン工場があるのか。説明を聞いて合点がいった。同工場では海外から輸入した原料を使ってワインを製造するのがメイン。藤沢は横浜や東京といった貿易港に近く、京浜地区に輸入された原料を輸送するのに、都合がよいというわけだ。ちなみにこの地に工場の前身が設立されたのは大正9年(1920年)。今年で97年目を迎え、五輪イヤーの2020年には100年となる。
工場内に“外国”!?
さて、工場内で最初に目に入ってきたのは、何本も並んだ大きなタンク。実はこのタンク、“外国”扱いになっているという。正確には保税地域となっており、海外から輸入したワイン・原料の通関を保留しながら貯蔵できる。ワインを製造する際にキリンがその量を計り、税関に申告するということだ。
続いて物流センターやボトリングのラインを拝見した。物流センターには最大45万パックを保管できるキャパシティがあり、ボトリングでは12ラインが稼働できる。さすが日本最大のワイン工場という印象だ。
ただ、もっともユニークに感じたのが、「恒温保存サンプル庫」。ここには工場で製造した全ロットのサンプルが保管され、品質管理に活用している。と、ここまではどんなメーカーでも行っていることで珍しくはないが、部屋の片隅に水槽が置かれ、メダカが涼しげに泳いでいたのが目に入った。
「ペットかな?」と思ったがそうではなく、仮にクレームが入った場合、製品の毒性を調べるための“毒味役”になるという。「意外にもアナログ!」と感じたが、今年からは横浜市・生麦に集約されているキリングループの研究機関にその機能を移管。現在泳いでいるメダカはすでに“お役御免”になっており、彼らの次の世代は入らないという。