「早くやる」の部分が、現在注目を集めている「働き方改革」にあたる。労働時間の短縮が注目されているが、多くの日本企業の取り組みは「足キリ型」のアプローチだ。システム管理等で強制的に労働時間を削減しているが、仕事量は減らず、効率化できる仕組みも整っていない。これは水面下のサービス残業やシャドウITを加速させるだけだと小柳津氏は指摘する。
ではマイクロソフトはどうなのかといえば「いつでも、どこでも、誰とでも」仕事のできるシステムを作り上げ「さっさと」仕事することを促している。
「さっさと仕事をしろという話だが、これはパワハラではない。さっさとというのは、効率的に、スピードアップして仕事をしてくれという意味」だと小柳津。
これは外出の多い営業担当者や、育児・介護等の事情を抱えた社員だけでなく、全社員が利用できるシステムであり、求められる働き方だ。
マイクロソフトの働き方改革の事例として記事化されているものの多くが、在宅やモバイル環境でも業務が進むというものだが、それは偏った取り上げ方だという。
「まるでネットの住人のような働き方を推進しているように思われていそうだが、実際は品川のオフィスでFace to Faceで人と関わることを非常に重視していため、ほぼ全員が毎日出社している。ただし、1日の半分程度しかオフィスにいない」と小柳津氏は実情を解説。
新しい関係づくりや難しい交渉など顔を合わせて仕事をする意味がある内容のために出社するのであり、すでに構築された関係の中で必要な根回しや報告・連絡・相談などは必ずしも出社する必要はないと切り分けているのだ。
「こうした制度によって、社員は働きやすくなる。業務効率化で働きやすくなると、業務効率のよさが継続する。とても暑い日、会社に行くのはやめようかなと考えるが、仕事をするのをやめようとは言わない。悪天候の時に無理して出社することもない。社内で労働時間は記録されているが、評価の対象にはならない。労働時間の長さと評価は完全に切り離されている」と、小柳津氏は社員が安心して快適に利用できる制度であることが重要であることを語った。
オプション型テレワークは失敗への道
なぜマイクロソフトの働き方改革は成功し、多くの日本企業が足踏みをしているのか。それは旧来的な価値観を変革しないまま、テレワークを「オプション」として考えているからだという。
旧来的な価値観というのは「仕事=出社」であり「長時間労働=がんばり」というようなものだ。これが残ったままで育児中の社員等にのみ在宅業務を認めたり、限定的なモバイルワークをさせたりすると、システムは複雑化し、得られる成果は小さくなる。また上司や同僚の目などを考えれば制度を使いづらくなり、用意されたものの使う人のいない制度ができあがりかねない。
「マイクロソフトも最初はそういった取り組みをしたが、誰も使わなかった。現在の制度は、社長が全員に向かって毎日使えというもの。使いやすい。それで誰が助かるかと言えば、育児や介護に取り組んでいる人。実は私も介護をしてるが、それで会社を休んだりプロジェクトに迷惑をかけたことはない。どこでも仕事ができるので、私生活と仕事のバランスを自分で完全にコントロールできている」と小柳津氏は実感を語った。
現在のマイクロソフトは「本社と自宅とモバイル」というようなワークシーンの切り分けを行っていない。「いつでも、どこでも」すべての仕事ができるシステムを、全員が使っている。1つの制度、1つのシステムしか存在しないことで社員は利用しやすく、管理側もオペレーションがシンプルになるという大きな効果がある。