動画マーケティングプラットフォームを展開する米国Brightcoveは7月26日、これまで同社のCEO(最高経営責任者)を務めてきたデイビット・メンデルス氏が退任したことを発表した。

メンデルス氏は、2010年から社長兼最高執行責任者、2013年から最高経営責任者を歴任。またかつては、Macromediaで国際事業の担当副社長として日本法人の設立とFlashなど主力製品のマーケティングに約16年間従事したほか、MacromediaがAdobeに買収されたのちにはBtoB製品部門を率いて数多くのインタラクティブ製品のマーケティングを担当している。

長年、動画マーケティングの第一線に立ち世界をリードしてきたメンデルス氏は、日本における動画マーケティングにどのような課題や可能性を感じているのだろうか。このほど都内で開催された動画ビジネスに関するカンファレンス「Brightcove PLAY 2017 Tokyo」において、基調講演を行うために来日した退任前のメンデルス氏にインタビューを実施することができた。メンデルス氏の言葉をもとに、日本の動画マーケティングが考えるべき「アナリティクス」「デリバリー」「VR」という3つの方向性をまとめる。

7月26日にBrightcoveのCEOを退任したデイビット・メンデルス氏

動画マーケティングは、デジタルマーケティングのトレンドに追いついていない

デジタルマーケティングに動画コンテンツを取り入れる試みはインターネット環境の整備とともに拡大し、最近ではスマートフォンでも快適に動画コンテンツを視聴できる環境が整ったことで、動画を使ったコンテンツマーケティングが企業のスタンダードになりつつある。YouTubeには数多くの企業公式チャンネルが展開され、またオウンドメディアにも様々なテーマの動画コンテンツが組み込まれている。ただ、日本国内の動画マーケティングについては“制作・公開して視聴回数を増やす”というミッションに留まってしまっているというのが、メンデルス氏の評価だ。

「“コンテンツを作る”という側面においては日本と世界に大きな差はない。ただ、マーケティングエコシステムの構築という点においては、日本は北米などと比べて大きく遅れている。我々としては、オラクル、マルケト、セールスフォースなどマーケティングクラウドを展開する企業とも連携して、マーケティングエコシステムの構築を啓蒙していく必要があると考えている」とメンデルス氏は語る。つまり、他のデジタルマーケティング手法がそうであるように、動画マーケティングにもデータの収集と分析によるPDCAの最適化を実行すべきであり、マーケティングソリューションとも連携してカスタージャーニーの中で動画コンテンツを機能させる必要があるということだ。

「YouTubeをマーケティングに使うことは大いに有効であることは間違いない。しかし、YouTubeだけでは“誰がどれくらい視聴したのかを把握することができない”、“競合他社のコンテンツに流出可能性がある”という弱点もある。Brightcoveの動画配信ソリューションは他のマーケティングソリューションとの連携により視聴者のインサイト分析とマーケティングのパーソナライズを実現する。これはYouTubeにはできないことだ」(メンデルス氏)

Brightcove VIDEO MARKETING SUITEのアナリティクス機能では、動画再生中の視聴者の動きなどを分析できる

動画コンテンツを使ったデジタルマーケティングでは、どうしても視聴回数やソーシャルメディアでの拡散などに視点が集中しがちで、その結果に一喜一憂することが多い。その背景にはテレビの存在も大きいのではないだろうか。つまり、テレビ広告では推定視聴者数が絶対的なKPIになってきた中で、同じ発想でネット動画を考えてしまうと、どうしても“リーチ至上主義”になりインサイト分析ができることにさえ気が付かないのだ。

しかし、デジタルマーケティング全体に目を移すと、カスタマージャーニーのデザインとPDCAの運用は当たり前で、今はプライベートDMPなどを活用したデータ分析とマーケティングのパーソナライズまで踏み込んだチャレンジが繰り広げられている。動画マーケティングはこの領域に辿り着いていないのではないだろうか。

この点について、メンデルス氏はメールマーケティングと比較して「メールマーケティングでは、A/Bテストのノウハウや開封率の把握、URLのクリック率の把握やランディングページのアクセス解析などアナリティクスの手法が確立している。しかし、ビデオは同じようなアナリティクスはまだまだ活用されていないように感じる。メールは開封したユーザーが本当に本文を観たのかはわからないが、ビデオでは視聴したユーザーが何をどこまで視聴したのかを分析することができる。動画の視聴インサイトを分析するというトレンドが普及すれば、こうしたアナリティクス手法の活用は広がるのではないだろうか」と可能性を述べている。