インタビューに応じたAppleのシニアエグゼクティブは「競争は顧客にとって重要です。ベースバンドやモデムチップにしても、イノベーションがたくさん含まれており、Qualcommを追い上げる競合がいることによって、さらに技術的な発展をする。公正な競争状態は、異なる未来をもたらしてくれると信じています」と語る。

Appleが現在の最終販売価格に対するライセンス料を支払う契約形態を見直したい理由は、やはり「価格の問題」だ。

2017年第1四半期のiPhoneの平均販売価格は695ドルにまで上昇している。iPhone SEや過去のモデルの販売を含めても、iPhone 7 32GBモデルの649ドルを大きく上回っており、大型画面のiPhone 7 Plusや、より大容量のモデルを買い求める顧客が増えていることを裏付けるものだ。

Qualcommとのライセンス契約に不満を抱く理由も納得できる。AppleがiPhoneの高付加価値化を進め、また販売価格の高いiPhoneを買い求めるロイヤリティの高い顧客を育ててきたバックボーンを見たとき、通信チップが貢献しているとは考えにくい。もしQualcommの通信チップが高付加価値化に大きく寄与していたなら、Apple以外のAndroidスマートフォン全ての販売価格が上昇し続けているはずだが、実際はそうなっていないのだ。

そして2017年の10周年を記念するiPhoneは、アナリストによると、1,000ドルを上回るプライスタグが付けられることが予測されている。もちろん全てのユーザーが1,000ドル以上のiPhoneに惹かれるとは考えにくいし、筆者の予測では、iPhone 7 Plus 256GBモデル近辺の価格がスタートラインになるのではないか、と思う。

しかしいずれにしても、高付加価値化が進んでいく過程では、販売価格と通信チップのライセンス契約を切り離しておきたい、とAppleが考えるのは自然な流れとは言えよう。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura