日本でP2P送金はブレイクするのか
ここまで米国でのトレンドを中心に紹介したが、冒頭にもあるように個人間送金は金融の最も基本的なサービスであり、その需要は今後も増え続けるだろう。
米国などの先進国において、モバイルでのP2P送金の登場による最も大きな変化は、これまでの送金サービスでは難しかった「少額の送金」が身近になった点にある。総じて手数料が低く、登録が簡単で誰もが利用できるようになったことで、これまで現金に頼っていた金銭授受のデジタル化が可能になった。
現在、世界各国はより安全で通貨維持コストがかからず、かつ取引を活発化させるためにキャッシュレスに向けた取り組みを進めている。1回にやりとりされる金額こそ少ないものの、その回数は非常に多いP2P送金がデジタル化されることは、このキャッシュレス社会実現における重要な鍵となる。
中国ではQRコード決済やオンラインショッピングの爆発的な普及により、キャッシュレス社会実現に向けて先んじているという報道がたびたび行われているが、金融システムが成熟していない国ほどキャッシュレス実現に近いという意見もある。
例えば、中国では2000年代に入って銀聯(ぎんれん)という世界でも最高クラスのインターバンクの取引システムを構築し、多くの人々が銀行サービスを利用できるようにした。一方で新興国の多くは、都市部以外では銀行口座を持たない人口を抱えており(Unbankedと呼ばれる)、これらの人々をどう金融システムに取り込んでいくかが大きな課題となっていた。
だが現在では、携帯電話のインフラが整備されたことにより、こうした地方の人々にもフィーチャーフォンやスマートフォンなどの携帯端末が広く普及。これにより、SMSや専用アプリを介してのモバイル金融が発達し、送金や公共料金支払いなどのサービスが簡単に利用できるようになっている。ゆえに、新興国ほどモバイルP2P送金の利用が早く進むのではないかという見方だ。
翻って日本はどうだろうか。日本で広く普及しているメッセージングサービスのLINEが「LINE Pay」という形で決済・送金サービスを提供しており、モバイルP2P送金の仕組みを簡単に利用できるようになっている。さらに、今年2017年7月中にはP2P送金アカウント登録時に従来まで必要だった身分証(運転免許証など)の送付プロセスが不要となる見込みで、登録のハードルが下がったことで利用者の増加を見込んでいる。
一方で、P2P送金はマネーロンダリングに利用される可能性があるという問題を抱えている。特に先進国においては法規制の観点から利用を制限する傾向があり、PayPalのP2P送金機能が日本で利用できない理由の一端もここにある。だが今後、このあたりの作業を簡略化する流れが一般的となり、米国などで人気のサービスが続々と国内展開されることになるかもしれない。Apple PayのP2P送金機能も現在は米国限定だが、いずれはこの流れに乗って日本での展開が見えてくるはずだ。現金社会といわれる日本において、キャッシュレス実現の大きな鍵を握るのはきっとモバイルP2P送金となるだろう。