質疑応答で三木谷氏は、一部報道の「5年総額320億円」というスポンサーの巨額契約が、スポーツ界において「グローバルで見ても、異例の金額では?」という質問を受けた。

これに対して三木谷氏は、「バルセロナとのパートナーシップは、(楽天という)ブランドの意味が変わるということ。さまざまな形で人に使われるサービスを開発し、利用していただくことで投資した分は回収できると思う」と回答した。

一般的にこうしたスポンサー契約の契約金は公表されないが、この質問に対して三木谷氏は肯定も否定もせず。契約では、2017-2018年シーズンから4年間、2021-2022年シーズンまで「Rakuten」ロゴがユニフォームの胸に掲載される上、さらに1年のオプション選択も用意されている。

また同社グループのメッセージングサービス「Viber」で選手やクラブが公開トーク機能を利用して情報発信を行うほか、プレイヤーを模したステッカー(LINEにおけるスタンプ)も配布する予定だ。さらに日本では、「FCバルセロナ公式クレジットカード」として、ロゴや主力プレイヤーがデザインされた楽天カードを発行し、バルセロナファンの取り込みを狙う。

欧州事業を再編した楽天、反転攻勢なるか

5年320億円というコストだが、1年あたり60億円強の広告宣伝費と捉えれば、むしろ常識的な金額にも思える。例えば日経広告研究所が調査している有力企業の広告宣伝費では、トヨタ自動車が4890億円、ソニーが2913億円(共に2015年度)という巨額を1年間に費やしている。もちろん、その巨額の内訳として見た場合に「トップスポーツクラブの胸スポンサー」に60億円を費やすかどうかと問われると難しいが、これは三木谷氏が築き上げてきた楽天だからこそ、決断できた事案といえるだろう。

楽天は、プロ野球において東北楽天ゴールデンイーグルスを、Jリーグではヴィッセル神戸の実質的なオーナー企業となっている。スポーツへの協賛、関与は一種のCSR活動としても認知されており、社会貢献的な側面を持ちつつ、楽天ブランドの裾野を広げる狙いが見て取れる。

ただしバルセロナのお膝元である欧州では、2016年に事業再編を行っており、バルセロナブランドを通してグローバルに「楽天ブランド」を植え付けようにも、サービスがない国が多い(バルセロナのスペインでもサイトや拠点を閉鎖)。またグローバルでLINEなどとしのぎを削る、前述のメッセージングサービス「Viber」も、LINE以上のユーザーボリュームこそ確保しているが、WhatsAppやFacebook MessengerといったFacebook陣営と比較すれば、あまり目覚ましい事業の伸長は見られない。

グローバルにブランド認知を広げるための素材があまりない状況だが、楽天も手をこまねくだけでなく、今年1月には商業銀行をルクセンブルグで展開すると発表し、再び欧州市場への足がかりを作った。バルセロナとのパートナーシップをテコに、反転攻勢の糸口を見つけられるか、三木谷氏の手腕が問われる。