明太子やピザソース味も「富久屋」

2代目の家田登美子さんは「近くの専門学校の生徒さんもよく買いに来てくれますよ」と語る

駄菓子屋の減少によって、発祥地の名古屋でも昔ほどポピュラーではなくなってきているたません。このまま失われゆく昭和の思い出となってしまうのか……と思いきや、少しずつ、その存在が見直されつつもある。

「10年くらい前からよく売れるようになっています」と語るのは、昭和34年創業「富久屋」(ふくや・名古屋市西区)の家田登美子さん。きっかけは、チーズや明太子、ピザソースなど、トッピングのバリエーションを増やしたことだそうだ。

店はお好み焼きやたこ焼き、団子などを販売する商店街ではおなじみの手作りおやつ専門店で、今ではたませんが看板商品の1つになっているという。




隠し味が自慢の「駄菓子屋たま」

新たに駄菓子屋を始めてたませんを売り出した店もある。5年前の2012年にオープンした「駄菓子屋たま」(名古屋市北区)だ。

たませんは100円。その他のトッピング系も150円と激安!

「父の代から60年近く文具店をやっていたのですが、私がサラリーマンの定年を迎えたのを機に駄菓子屋にしたんです」と店主の玉腰弘一さん。調理を担当するのは妻の里美さんで、「たませんの調理は自己流。名古屋だと、ホットプレートを使って家庭でも作るものだから、そんなに特別なものじゃないんですよ」と言う。

こちらも駄菓子屋発B級グルメ。うまい棒に玉子焼きを巻いた通称"スナックロール"

ここでもやはりバリエーションが豊富で、焼き肉のタレを使う"肉玉せん"、チーズやサラミを挟む"ピザせん"、たこ焼きを挟む"たこせん"などがある。また、ある隠し味を使い、他とは違う味の深みも加えている。普段は近くの学校に通う小学生たちがお得意さんだが、週末は懐かしの味を求めて名古屋市外からやってくる人も少なくないという。

お小遣いを握り締めた小学生でいつもにぎやかな「駄菓子屋たま」の店内

縁日の屋台でも10年ほど前から人気上昇中

ひろみさんが焼くたません。屋台「亀山商店」では、「玉子せんべい」の名称で販売していて、ノーマルは300円~、超スペシャルでは600円までのメニューがそろう

たませんは、縁日の屋台でも定番。ここでも近年、人気が上昇中だ。露天商の林幸夫さんが言う。「自分もたませんを食べて育った世代(昭和45年生まれ)だもんで、町の駄菓子屋がなくなってきたのを寂しく思って、10年くらい前から積極的にたませんを売るようになったんだわ。親になって懐かしがって子どもに買ってやる、という同世代のお客さんが多い。子どもたちも一度食べると気に入って、また買いに来てくれるよ」。

名古屋市内の縁日では、屋台50本中、2~3本(屋台は1本、2本と数えるそう)はたませんを売っていて、市外では70本中1本くらいだというが、徐々に増えつつあるという。

たませんを焼いて4年という「亀山商店」のひろみさんは、「歩きながら食べるものなので、ソースやマヨネーズがこぼれないように、ちょっと控えめに塗るのがコツ」と話す。ここでは天かす、青のりを挟むのが基本で、超スペシャルだとチーズ、ハム、ツナ、コーンもトッピングされる。

チープでレトロ、でも、トッピングなどで進化を遂げ、新たな驚きを見せてくれるたません。正真正銘のB級グルメとして、「名古屋メシ」枠の中に割って入ってくるかも(!?)。これからの夏祭りシーズンでは、たませんを食べられるチャンスも多い。地元の人は懐かしさを、市外県外の人は未体験の味を求めて、パリパリ気軽に食してみよう。

夏祭りシーズン真っ盛り。名古屋の縁日ではたませんを食べられるチャンスも多い

information

「富久屋」
住所: 名古屋市西区那古野2-13-13
営業時間: 10~16時
定休日: 日曜日・祝日
アクセス: 名古屋駅より徒歩10分

「駄菓子屋たま」
住所: 名古屋市北区光音寺町野方1918-76
営業時間: 11時半~18時
定休日: 日曜日
アクセス: 名古屋市バス 福徳町バス停からすぐ

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信する。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。著書に『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『名古屋めし』(リベラル社)、『名古屋の商店街』(PHP研究所)、『東海の和菓子名店』(ぴあ中部支局/共著: 森崎美穂子)などがある。Webガイドサイト「オールアバウト」名古屋ガイド。愛知県や名古屋市などの協同プロジェクト、なごやめし普及促進協議会ではアドバイザーを務める。