胃袋をがっちりつかまれた常連さんたち
「かつれつ四谷たけだ」はしんみち通りの入り口にある、揚げ物に特化した洋食店です。明るく清潔な店内。カウンター9席、ふたりがけテーブル席4席、計13席のコンパクトなお店で、キッチンに男性3人、フロアーに女性一人、計4人できりもりしています。黙々と働くお店の人。キッチンからは静かでていねいな音が聞こえてきます。
メニューは40種類以上。季節限定、午後限定メニューも多く、冬限定の牡蠣メニューが大人気とのこと。トッピングもあるので、お客さんの好みで多彩に楽しめます。シラサキは「特選もちぶたロースカツ定食」(税込1,380円)、マイナビニュース担当Mさんは「ポークカツレツ定食」(税込1,150円)を注文。待っている間、後ろから老紳士と女性店員さんの話し声が。よく聞き取れないけど、ふたりの声がとてもやさしい。古くからの常連さんだろうか? と想像。
いよいよお料理が運ばれてきました。「もちぶたが、もしよかったらお塩がすごくよく合うので、お塩で一回召し上がってください」と女性店員さんに勧められたので、「テキサス岩塩あらめ」を振っていただきます。とりあえず、ふたりそろって「いただきま~す!」
シラサキ「おいしい~! おいしい~~! ふははは。おいしいですね~これは。香りがすごいな」
担当Mさん「おいしい~! 身が厚いのにさっぱりしていますね」
シラサキ「お肉が柔らかくて、香りがさわやかで……、あれ? うまく説明できないや。黙って食べますね。おいしい~~! 」
ふっくら柔らかく、甘く、かるく、さわやかな香りが広がります。これはぺろりといただけます。お行儀が悪いけど、Mさんのポークカツレツもパクリ。
「自分の好きなことをやらしてもらおう」で屋号変更
お時間をいただき、店主の竹田雅之さんにインタビューさせていただきました。
担当Mさん「四谷という立地、1日の来客数は何人くらいでしょうか?」
竹田さん「1日260~270人くらい、冬場は牡蠣メニューの評判が良く、多い時で300人近くいらっしゃいます」
担当Mさん「入店までの待ち時間はどれくらいですか? 」
竹田さん「平日は回転もよく、お客さんのお気遣いもあって、15分くらいでしょうか。土曜日は、遠方からのお客さんも多くて、30分待ちの時もあります」
担当Mさん「お店は、いつくらいからになりますか? 」
竹田さん「屋号を『かつれつ四谷たけだ』に変えたのが6年前なんですけど、それまでは『洋食エリーゼ』というお店で、昭和45年から営業していました」
竹田さん「16年間『エリーゼ』の二代目として頑張ってきたので、そろそろ自分の好きなことをやらしてもらおうと、屋号を変えたんです。基本洋食店なんですけど、揚げ物に特化して、素材、パン粉、油と見直しを行いました。値段据え置きでいながら、もっと上質なものを出せないかという思いから"単品商売"で勝負したかったんです」
シラサキ「『エリーゼ』からのファンの方も多かったのでしょうね? 」
竹田さん「そうですね、名前を変えちゃったから……。オーナーが変わったと思った人も多かったのですが、最近ようやく浸透してきて、『エリーゼ』とは別に『たけだ』として、一から年々ファンも増え、『エリーゼ』時代の売上を超えるようになってきています」
「たけだ」の名前は原点回帰
担当Mさん「ちなみに『エリーゼ』というお名前は? 」
竹田さん「父がクラシックが好きで、ベートーベンの『エリーゼのために』からとったそうです。元々、祖父が築地の中央卸市場で『洋食たけだ』をやっていまして、父がそこの二代目でした。昔からじいさんが、日本橋からだから、お客さんが完全についていたんです。その後、父が二号店として四谷に『エリーゼ』を出した。でも築地の外に初めて出店するので、上手くいかなかった時のことを考えて、その当時だから喫茶店に変えられるようにと『エリーゼ』とつけたとも聞いています」
担当Mさん「おじいさまが『洋食たけだ』というお名前を使っていて……」
竹田さん「そうなんです。父が50代で他界した時に僕もまだ若くて、そのまま引き継ぐことができず、赤坂店は閉店し、四谷は僕が引き継ぎ、築地は叔父が引き継ぎました。築地の『洋食たけだ』は、僕が商売をやっていく上での原点だったので、『エリーゼ』から屋号を変える時に『たけだ』の名前を残したかったんです。全盛期の時は、13席のお店に従業員が6~7人いまして、それくらいいないとやってけないほどの手間のかけようだったんです。だから思い切って揚げ物に特化して、もうちょっと僕の目の届く範囲で、僕のできる範囲で、しぼりたかったんです」
担当Mさん「産地などに、こだわりはありますか? 」
竹田さん「こだわりというより、ほんと、爺さんの、親父の代からの、市場だったり駅前食堂だったり、働いている人がおいしいものを安く腹いっぱい食べられる、その部分を変えたくなくて。産地も1,000円だったらその中で一番最上級のものを出したいと思っています。原価高騰もあり薄利多売ですが、僕もこだわりすぎちゃうもんだから、例えばロース肉なんかだと硬いスジとか脂が多いと、原価無視してどんどん削っちゃて。お客さんには、そこに気づいていただいて、来ていただいていると思うんです」
シラサキ「『エリーゼ』時代、『たけだ』時代を通して、お客さんの感じは変わりましたか? 」
竹田さん「はい、女性のお客さんが本当に増えました。僕が高校生でバイトをしていた頃は、ほんと駅前食堂で、BGMはラジカセだし飾りっ気なくて。その当時は駅前食堂に行きづらかったと思うのですが、時代が変わって10年位前からでしょうか、女性の方がどんどん増えてきましたね」
ふと見ると、壁に2枚の写真が飾ってあります。ビルのオーナーさんが「エリーゼさんこれ飾ってよ」と持ってきてくれたのだそう。ビルの屋上から麹町方面を撮影した、近年のパノラマ写真と1970年開店当初のパノラマ写真。その後また時を重ねて、現在は上智大学の教会も変わり、ビルも増え、駅も新しくなっています。でも四谷見附跡の石垣は同じ。
●information
かつれつ四谷たけだ
住所: 東京都新宿区四谷1-4-2峯村ビル1F
アクセス: JR中央線/東京メトロ丸の内線・南北線「四ツ谷駅」から徒歩2~3分
テクテク歩いて、神社、博物館と街の移り変わりを見てきた後に、2枚の写真。なんでしょう……この感覚。四谷の街をタイムリープした最後に、親子三代の味が重なり合って、不思議な満腹感でいっぱいです。四谷の「時をかけた」おいしさに、ご馳走さまでした。
筆者プロフィール: シラサキカズマ
1966年広島県生まれ。筑波大学芸術学群洋画科卒業。1990年よりイラスト、キャラクターデザイン、アニメーションと幅広く活動。「シュール&ピース」なキャラとポップな世界観が特徴。代表作「ミカンせいじん」。オフィシャルサイト「mikan-seijin.com」。