聖地巡礼地とファンの交流、災害を通した絆とは - 『ハイキュー!!』岩泉一選手誕生会レポート

いよいよケーキ入刀、ミニ岩ちゃんの登場に湧く会場

男女グループ、また家族連れなど30人前後が集い、軽米町特製の「岩泉一テスト」(これがかなり難しい。軽米には烏野高校をはじめ、各学年分用意があるという)などをして会場で待っていると、いよいよ記念撮影とケーキ入刀の時間となった。

ケーキは「うれいら通り商店街」に軒を連ねる、江戸時代から続く飴屋さんの「志たあめや」さん特製のキャラケーキ。ケーキ入刀は、岩ちゃんの4番のユニフォームを着た地元の男の子「やまとくん」が行った。参加者からは口々にかわいい、かわいい、岩ちゃんおめでとう!!などの声があがっていた。

その後はケーキの振る舞いがあり、イベントは終了。会場にはしばらく参加者がとどまり、作品や岩ちゃんトークを繰り広げ、別れを惜しむように1人また1人と帰路についていった。最後にユニフォームのやまとくんを次々に抱っこして、「あ～～子どものころの岩ちゃんもこんな感じなんだろうなぁ」と感慨深げにしていた女性グループが印象的だった。

今回のイベントについて、あらためて店長の茂木さんに話を聞いた。

――本日のイベントはいかがでしたか?

茂木さん:思ったよりもたくさんの、年齢も幅広い方が全国各地から来てくださって、また楽しんでいただけたようでよかったです。岩ちゃんというキャラクターを通して、名前のつながりでわざわざ岩泉町まで足を運んでくれるなんてすごいことで、ありがたいことです。きちんとおもてなしできるか心配でしたが、ひとまず安心しました。支援をしてくださったファンの方々、協力してくださった軽米のみなさんにも感謝しています。

――今の岩泉町の現状についてお聞かせください。

茂木さん:大変な災害が起きてからから今まで、ライフラインの復旧や仮設住宅などは整い、普通の生活はできるくらいにはなってきました。しかしそれでも以前の生活に戻ることはなく、まだまだ今後への課題はたくさんあります。

茂木さん:そんな中にあって、ファンの方々がこうして来てくださると、普段では触れ合うことができない方々に岩泉町の魅力を知っていただく機会になりうれしいです。日本三大鍾乳洞の龍泉洞も復旧が終わって営業再開していますし、山、川、日本の食用牛の1%に満たない短角牛や、バークシャー種の黒豚、伝統野菜、山菜やどんぐりの食文化など、実際に足を運んでいただいて初めて伝わる"ここにしかない魅力"がたくさんあります。「岩泉町＝台風」という悲しい側面だけでなくそういった部分も知ってもらい、新しいつながりができていったらいいなと思います。

――訪れてくれる方々からの刺激もあるのでしょうか。

茂木さん:はい、作品を知ることができて、そこから生まれた交流のためにまた岩泉町のことを考えるきっかけにもなります。岩泉町は中心地から遠く離れていたので、流通にのらず、そのおかげで残っている珍しいものがたくさんあります。でも、地元にいるとあたり前すぎて価値に気づきにくい。今後の子どもたちにも、そういったほかの土地から訪れてくれる人たちを通して地元の魅力を「再発見」してもらえればなと思います。

今後、10月以降に岩泉乳業の工場再建とそれに伴って地元の名産品「岩泉ヨーグルト」の再登場が予定されているという。また、龍泉洞を訪れる多くの観光客に楽しんでもらうため、地元の「うれいら通り商店街」では各種イベントを予定しているとのこと。

『ハイキュー!!』は2017年に5周年を迎え、各種イベントが催されているとともに、9月15日からは岩泉一選手擁する青葉城西高校が登場する『劇場版総集編 青葉城西高校戦「ハイキュー!! 才能とセンス」』が公開される。また、総集編公開にあたって単行本17巻に収録されている青葉城西高校の「試合後」を新規映像として追加。より岩泉一選手を知るにはおすすめだ。

作品を楽しんだうえで、岩泉町をはじめとする岩手の聖地を訪れてみると、より一層作品世界を楽しむことができるかもしれない。また、作品がきっかけで今まで触れることのなかった土地や人との出会いを体験し、もともとは縁もゆかりも無かったはずの場所に縁ができ、その地に思いを馳せることができるというのも素敵なことではないだろうか。

人口減少、高齢化など社会的な問題がいち早く顕在化している地方とどう繋がっていくのか国策含めさまざまな施策が試みられている。今回の現地取材で見聞きした感情の交流、そしてイベントで配られた揚げ出し豆腐に立てられた小さな旗を見るにつけ、互いにどういう「思い」を持って課題と相対することができるのかを、もっと注視した方がいいのかもしれないと感じた。