大和アレクサンダーの人気は予想外だった
――今回の新作で中心となるOver The Rainbow(通称:オバレ)のヒロ、(神浜)コウジ、(仁科)カヅキについても伺っていきたいと思います。今回、コウジがヒロに一喝するシーンがあり、衝撃的でした。
菱田:オバレの3人は、かつてプリズムショーの「三強」と呼ばれた(氷室)聖、仁、(黒川)冷に紐づけて描きたかったんですよ。それこそ仁のところにコウジがいって、ヒロの敵として現れるくらいの物語を、実は考えていたんです。ところが、オバレの3人が想定とは違った方向に転がって行って。僕としては最初に想定していたものとは違う物語になりましたけど、これはこれで面白い話になったのかなと思います。
――なんと……!
菱田:あと、本当はカヅキVS黒川冷って構図を作りたかったんですよ。アレク(大和アレクサンダー)は、当初の設定だと黒川冷の大ファンで、冷がかつてやってたジャンプを飛んだり、冷のコピーみたいなキャラクターとして登場させて、カヅキと戦わせようと思ってました。そうしたら、予想外にアレクが人気になっちゃってね(笑)。あまりにも人気が出たので、オリジナリティを足していったんです。
西:本当に、アレクの人気は予想していませんでしたね。ファンの方の声を聞いててびっくりしていました。
菱田:あと、コウジはプリズムキングカップに出すのも考えたんですけどね……。でも「CRAZY GONNA CRAZY」に乗せて、ドSなコウジを見せることができて面白かったなと思いますね、自分としては。
――ドSなコウジでしたが、そんなコウジのカレーのレシピにりんごとハチミツが入っていて、そのカレーを食べてヒロが元気を出すシーンにグッときました。
菱田:あそこは、バナナと蜂蜜にしようか迷ってたんですよね(笑)。でも、たまたま偶然、ヒロは最初に飛んだジャンプでりんごを持ってて、コウジは前作でハチミツキッスやってて。これ2つ合わせたらカレーじゃんってことであのシーンが生まれました。偶然が作り出した物語ですね。
西:泣けるシーンなんですが、お尻が突然出てきて……試写会でも皆さん笑っていらっしゃいました(笑)。
菱田:あれシナリオだと泣けるシーンなのにね(笑)。最初のコンテではないんですよ、あのお尻。でもアフレコをやった後に、あの絵をちょっと挿そうかって。今回初めて見た人には訳がわかんないだろうなと思って入れたシーンなんですけど、知っていても訳がわからないシーンになりました(笑)。
――監督が、以前Twitterで、「『プリティーリズム』シリーズを視聴していると100倍楽しめる」とおっしゃっていましたが、前作をきっかけに『キンプリ』の起源となった作品として『プリティーリズム』シリーズを全て視聴したファンもたくさんいました。『プリティーリズム』シリーズを通してこそ楽しめるポイントは、どこでしょうか?
菱田:今回の主役はOver The Rainbowの3人であり、ヒロなんですけど、彼らは『プリティーリズム・レインボーライブ』から出ているキャラクターなので、そこから追っかけてればより深い物語だっていうのがわかるはずです。それに、物語以外の細かい要素、例えば看板や新聞記事ひとつ取っても『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』や『プリティーリズム・オーロラドリーム』のオマージュだったりするので、そういうのを知っていると全く飽きないと思います。100回見ても耐えられる。100人乗っても大丈夫、みたいな(笑)。
――仁が若い頃にプリズムショーをしているシーンで、『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』に登場したペアチャムがいましたよね。しかも2匹。
菱田:あれはミミーとヤミーですね。
――なぜその2匹だったのでしょうか?
菱田:それは簡単で、当時グッズが1番売れたのと2番目に売れたペアチャムだからです。
西:悲しい……。
菱田:人気の最大公約数を狙ったってことですね。仁のところに来たのはその2匹だけだったんでしょうね。
西:売れた子だけっていうのが仁っぽいですね。
菱田:あと高田馬場ジョージが歌う曲も『ディアマイフューチャー』に登場した「LOVEഗMIX」の曲ですからね。一つも飽きる要素がないと思います。
収録でセリフがどんどん変わっていくのがこの現場の"伝統"
――寺島さんが、収録で一番印象に残っているのが、『プリティーリズム・オーロラドリーム』の(高峰)みおんのセリフをオマージュした「僕、生まれた」というセリフだったそうです。現場でいきなり指示を受けた時は、オマージュということを知らなくてすごいセリフだ! と思ったそうで。
菱田:あそこのシーンに、何かセリフを入れましょうよって長崎さん(※長崎行男音響監督)と喋っていた時に、やっぱり「私、生まれた」しかないよねって話になって「僕、生まれた」をお願いしたんですけど、その時のアフレコにちゃんと、みおん役の榎あづささんがいたんですよ!
西:寺島くんは収録が終わった後にバラされるっていう。
菱田:プリズムの女神様は見ているなって思いましたね。でもあづささんはアフレコでは何も言わなくて、終わった後に「言っていましたね」ってちょっと嬉しそうにしてましたよ。それと、シンくんのアフレコの時に、近藤さん(※『オーロラドリーム』『ディアマイフューチャー』に登場したショウを演じる近藤隆)がいて、「無限ハグ」の昔と今がいる!と思って(笑)。
西:榎さんの「私、生まれた」も当時のアドリブだったんですよね。
菱田:そう、榎さんが作ったアドリブだったんですけど、それがああやって受け継がれるのを見ると面白いですね。そうやってアドリブでセリフが追加されていくのも、この『プリティーリズム』シリーズの醍醐味なんです。台本通り読んでも、その場で「つまんないね」ってなったら簡単にセリフが変わるんですよ。
――他の現場よりもセリフが変わることが多いのでしょうか?
菱田:かなり多いと思いますよ。それに、演技についても「ちょっと違うパターンで」とだけ伝えて、その場で、即興で違う演技をやってもらうのが、この現場の昔から受け継がれている伝統なんです。今回の収録も、それが遺憾なく出ていましたね。杉田智和さんも今回参加してくれましたけど、「違うパターンで」って、それだけしか言われないんですよ。でも杉田さんはやっぱりすごい人なんで、軽々と僕らの予想を越える演技をしてくれました。
――寺島さんが収録について「監督の指示に必死についていった」とおっしゃっていたのは、まさにそうした臨機応変な対応が求められていたからだったんですね。寺島さんと言えば、一条シンくんをやるまでは大人っぽいキャラクターを演じることが多く、シンくんで、役の幅が広がったとおっしゃっていました。寺島さんをキャスティングしたのはどんな理由からだったのでしょう?
菱田:西さんのキャスティングは、オバレの3人を選んだ時から冴えてるんですよ。だから、僕らはもう西さんにお任せしますって言ってて。最終的には西さん一人で全部決めたんですけど、結果的にはすごく良かったですよね。
西:ありがとうございます。
依田:(※同席していたタツノコプロの依田健プロデューサー)シンに関しては、結構意見が割れたんだよね。もうやり直そうって 僕たちは思ったんだけど、西さんが「一日ください! 一晩考えます!」って言って決めて。
西:『プリティーリズム』シリーズは、オーディションで、必ずプリズムジャンプをやっていただくんです。「無限ハグ!」とかをお願いするんですけど、やっぱりちょっと恥ずかしそうにやってらっしゃる方が多くて。そんな中、寺島さんはニコニコしながら「よーし!」って感じでやってらっしゃったのが印象に残ったんです。
菱田:プリズムジャンプは良かったよね。
西:恥ずかしさが出ちゃったり、カッコつけたりも一切なくて、楽しそうにやってくださっていたので。そこがシンぽいなと思って寺島さんに決まりました。
――最後になりましたが、『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』へ掛ける監督の意気込みを教えてください。
菱田:さっき十字架の話などもしましたけど、前作では、ファンの方の予想外の応援スタイルには負けたな……という思いがあったんですよ。だから、今回はこちらがファンの方の掛け声やリアクションを想定して作った部分が、前作の10倍、いや30倍になっています。ファンの方をこちらの意思で動かすっていう、そういう部分を増やしましたね。まあ、やってくれるのかはわからないですけど。こっちが想像している以上に向こうは手ごわいので(笑)。多分こちらで想定したことをやってくる上に、何かをファンの方が加えて来て、また僕は負けるんだろうなと思います。
――すでに負けを見越しているんですね。
菱田:まあ負けませんけどね!!(笑)。
劇場版『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』は、新宿バルト9ほかで全国公開中。
■スタッフ 監督:菱田正和、脚本:青葉譲、CGディレクター:乙部善弘、キャラクター原案&デザイン:松浦麻衣、プリズムショー演出:京極尚彦、音楽:石塚玲依、音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ、音響監督:長崎行男、音響制作:HALF H・P STUDIO、原作:タカラトミーアーツ/シンソフィア/エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ、アニメーション制作:タツノコプロ、配給:エイベックス・ピクチャーズ、製作:キングオブプリズムPH製作委員会
■キャスト 神浜コウジ:柿原徹也、速水ヒロ:前野智昭、仁科カヅキ:増田俊樹、一条シン:寺島惇太、太刀花ユキノジョウ:斉藤壮馬、香賀美タイガ:畠中祐、十王院カケル:八代拓、鷹梁ミナト:五十嵐雅、西園寺レオ:永塚拓馬、涼野ユウ:内田雄馬、法月 仁:三木眞一郎、如月ルヰ:蒼井翔太、大和アレクサンダー:武内駿輔、高田馬場ジョージ:杉田智和、氷室 聖:関俊彦、黒川 冷:森久保祥太郎、山田リョウ:浪川大輔
(C)T-ARTS/ syn Sophia / エイベックス・ピクチャーズ / タツノコプロ / キングオブプリズム PH 製作委員会