画期的な技術とハイテク国・フランス

PRYNT POCKETは、気軽に楽しめるインスタントスチルカメラと、あわせて動画を撮影しクラウドへアップロードするショートムービーカメラという2つの顔を持つが、その基盤には画期的なソフトウェア技術がある。

iPhoneで撮影すると間もなく写真がプリントアウトされるが、そのとき合わせて撮影された約10秒のムービーはクラウドへ自動アップロードされる。その動画は専用アプリ「Prynt」で再生できるが、鍵となるのはプリントアウトされた写真。この写真をスキャンすることで、静止画とともに撮影された動画を再生できるのだ。スムーズに事が進めば、10秒ほど待つと動画の再生が始まる。

PRYNT POCKETで撮影した写真を、専用アプリ「Prynt」でスキャンする

認識に成功すると画面左下に丸いアイコンが現れ、シャッター押下後に記録された約10秒の動画がアプリ上の写真の枠内でAR風に再生される

試しに5、6枚ほどスキャンしてみたが、関係のない動画が再生されるようなトラブルはなかった。サーバーには膨大な数の動画がアップロードされているはずで、その中から対応する動画をどうやって正確に探し出すのだろう?

しかし、写真はただの紙。IDが印刷されているわけでもRFIDが埋め込まれているわけでもなく、iPhoneに内蔵のイメージセンサーで静止画としてスキャンされるに過ぎない。肉眼では気付かないウォーターマークが仕込まれている可能性を考慮し、PRYNT POCKETの写真をスマートフォンで撮影・表示しスキャンしてみたが、変わらず動画を検出できた。

PRYNT社CEOのクレモン・ペロ氏にそのしくみと高速性について訊ねたところ、「撮影時のメタデータを (スマートフォン側に) 保存して検索に生かすような処理は一切していない。正確性よりも速度を重視した検出アルゴリズムを磨き上げることで製品化に成功した」とのこと。

確かに、PRYNT POCKET本体を持たないユーザでも「Prynt」アプリさえ入手すれば写真のスキャンから動画再生ができるので、彼の説明はうなずける。ちなみにこの技術、特許を取得しているそうだ。

疑問を解くもうひとつのキーが、写真の右下隅に写り込む「白い鍵」。ペロ氏によれば、スキャン時にその位置と向きをチェックすることで、写真の検知に役立てているそう。詳細を確認することはできなかったが、右下隅に鍵を識別しにくくしそうな部分があると判定した場合は、向きを変えたうえで右上隅に移動させる仕組みらしい。

スキャン時に「白い鍵」の位置と向きをチェックすることで、写真の検知に役立てている

単なる動画機能付きインスタントカメラではないことは、フランス貿易投資省の関与があることからもうかがえる。フランスといえば、高級服飾やワインといった伝統的な製品を連想しがちだが、彼らは先端技術の輸出促進にも注力しており、現在では世界70カ国に在外事務所を構え、「ビジネスフランス」という愛称のもと、合計1,500人という官民ネットワークによる後押しを行っているのとのこと。機能・外観ともにシンプルなPRYNT POCKETだが、実は先端技術を駆使するうえ、ビジネス展開も抜かりないという、ある意味フランスらしい製品なのだ。