どんな物件を選べばいい?
――最近の手口についてはよく分かりました。物件を選ぶにあたって、防犯上気をつけた方がいいことがあれば教えてください
まず環境のチェックですね。不審者は、「人の目」「光」「音」の3要素を嫌うと言われています。基本的にはこの3つがそろっているかを確認するといいと思います。
――なるほど。「人の目」とは人通りのことでしょうか
人通りも含みますが、管理人さんがきちんと物件を管理しているとか、ゴミが散乱していないとか、住居に対して人の目が行き届いている、という意味もあります。人気が多く明るい道が近くにあると安心ですが、物件そのものに人の目があるか、ということも気にしてくださいね。
また、最寄り駅から家までの道は、昼間と夜で2回通っていただきたいです。例えば、昼間は商店街が賑やかな通りでも、商店が閉まる夜には人通りがなくなってしまうケースもありますので。
――集合住宅では上の階ほどセキュリティ面では安心というイメージがありますが、どうでしょうか
防犯上の条件で言えば「1階でも3階も同程度」という場合はあるので、「上階だから安心」ということはありません。
一般に、1階は「地面と同じ高さなので侵入しやすい」「外から見えやすい」と言いますが、たとえば駐輪場の屋根が死角になっている物件の場合、それが足場になって2階や3階も同じ条件になってしまいます。ですので、階数よりは死角になっている足場や侵入経路がないか、というところに気をつけていただきたいですね。
――オートロックについてはどうでしょう
あった方が安心なのは間違いありませんが、過信してしまうのは危険です。オートロックを開けた住民の後ろについていくことで侵入する「共連れ」という手口があります。今は隣近所のコミュニケーションも少なくなっていますから、同じアパートやマンションに住んでいる人を全員把握しているわけではないですよね。
――それは怖い! 僕にも何度か覚えがあります……。「共連れ」を防ぐ方法はありますか?
顔を知らない以上、偶然居合わせただけの住人なのか不審者なのかを判断するのは難しいです。相手を不快にさせないために、携帯電話に着信があったフリをしたり、忘れ物に気づいたフリをしたりしてその場から一度立ち去るのがいいと思います。なるべく1人で出入りするようにするのが、マンションやアパート全体のセキュリティのためにもなります。
安全性が高い鍵とは
――家の鍵にもいろいろな種類がありますよね
そうですね。一般にピッキングに弱いと言われているのが、ギザギザの溝が刻まれた「ディスクシリンダー」などのタイプで、古い錠前にはこのタイプが多いと思います。最近は「ディンプルシリンダー」など、丸い凹凸がありピッキングに強いタイプが増えています。
――なるほど。しかし、「サムターン回し」の前ではピッキングへの耐性もあまり意味がないような……
「ディンプルシリンダー」などの利点は、ピッキング対策だけじゃないですよ! 鍵の防犯性能が高ければ高いほど、万が一落としてしまった時に複製される危険性も下がります。「ディンプルシリンダー」などには、身分証明書を提示しないと複製できないものも多いのです。
……それから、種類にかかわらず鍵番号の管理には気をつけていただきたいです。
――鍵に刻印されている番号ですね。どのようなリスクがあるのでしょう
メディアでも報道されていたように、メーカー名と鍵番号が分かれば、鍵を複製できてしまうケースがあります。
――えー!!
若い女性の間で、実際に被害が続出した時期もありました。鍵の点検にきた業者を装ってメーカー名と鍵番号を聞き出し、複製してしまうという手口です。盗み見られるリスクもありますので、シールを貼って隠したり、キーケースに入れて肌身離さず持ち歩いたりするといいですね。
――万が一、メーカー名と鍵番号が漏れてしまったらどうするべきでしょうか
残念ながら、鍵と錠前を交換するしかないですね……。
――気をつけないと!
防犯はまず「意識すること」から
――最後に、防犯のための心得を教えていただけますか
「泥棒に嫌われる家造り」をしてほしいですね。警察の調査によると、窃盗犯は家屋に侵入するのに5分以上の時間が掛かるとほとんどが犯行を諦めるそうです。「侵入に5分以上かかる」というポイントで対策をするのが効果的だと思います。1つの扉にカギを2つ付けるワンドア・ツーロックも有効ですし、窓にワンタッチの補助錠を付けるだけでも効果はありますよ。
「防犯対策」と言うと、どうしても「お金がかかる」「めんどくさい」といったイメージがあると思うんですけど、何よりもまず意識を変えることが重要です。犯罪のニュースを見た時に「私もこういう道をよく通るな」とか「この時間帯は私もよく外にいるな」とか、どこかで"自分ゴト化"して考えることから防犯対策は始まるんです。無理せず、毎日継続できるようなことから始めてほしいですね。
――まずはアパートの周りの環境を改めて確認してみます。ありがとうございました
イラスト: いらすとや