そんな髄膜炎を引き起こす原因だが、その種類は実に多岐にわたる。以下にそれぞれの原因の特徴をまとめたので参考にしてほしい。

ウイルス性……髄膜炎の原因として最も多いのがウイルス性。コクサッキ―ウイルスやエコ―ウイルス、ヘルペスウイルスなどがトリガーとなる。コクサッキーウイルスは「三大夏風邪」の一つと称されることもあるヘルパンギーナの原因ウイルスであるだけに、これからの季節は特に小児は注意した方がよい。また、小児に多いおたふく風邪に罹患して髄膜炎を併発するケースも少なくない。

「ウイルス性髄膜炎は細菌性髄膜炎に比べて重篤化するケースは少ないですが、気をつけないといけないのはヘルペスウイルスによる髄膜炎です。日本人の多くはヘルペスウイルスに感染しているのですが、多忙で不規則な生活によって体力が落ちているときなどにこのウイルスが"暴走状態"になり、髄膜炎を引き起こします」

ひどいケースではヘルペス脳炎にまで移行するという。この段階になると脳に炎症を引き起こし、意識障害や痙攣、記憶障害を引き起こすケースもあるとのこと。

細菌性……ウイルスに次いで多い髄膜炎は、化膿性髄膜炎とも呼ばれる細菌性髄膜炎。具体的にはB群溶連菌や大腸菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌など。細菌性髄膜炎は年間で1,500人ほどが罹患しており、そのうちの7割が小児とされている。

「起因菌は子どもだとインフルエンザ菌、大人だと肺炎球菌がほとんどです。この2つは重篤化しやすいために注意が必要ですが、近年になって予防接種が公費負担になりました。それ以降、患者さんはずいぶん少なくなっていますね」

インフルエンザ菌は、例年冬に流行するインフルエンザウイルスとは全くの別物。インフルエンザウイルス用のワクチンを接種しても、インフルエンザ菌の感染対策にはならないので勘違いしないように。

真菌性……真菌(カビ)が原因で発病することもある。中でも、鳩などの糞に含まれているクリプトコッカスがメジャー。真菌性の髄膜炎は亜急性であり、急性のウイルス性や細菌性と異なり、数週間かけて症状が進行していくという特徴を持つ。野鳥の糞にむやみに近づかないのが賢明と言えそうだ。

結核菌性……結核は全身のさまざまな部位で病気を引き起こすが、髄膜を病巣とするケースもある。この結核性髄膜炎も重篤化しやすく、死亡率も他の髄膜炎に比べて高い。以前に比べて治療技術も発達しているが、それでも予後は悪く合併症を招きやすいのが現状だ。

髄膜炎の厄介な特徴

頭痛や発熱といった髄膜炎特有の症状は風邪と似ている。それだけに髄膜炎と気づきにくいうえ、ウイルス性や細菌性は発病から症状が重くなるまでの期間が短いという厄介な特徴を持つ。診断がついたときにはかなり症状が進行しているというケースも残念ながら起こりうる。

体の異変を感じて受診した患者に対し、「それぐらいで診察するなんて大げさです」などと非難する医師はいないはず。「3日間も頭痛が続く」「今までに経験したことがない激しい頭痛がする」などのように普段の自分と違うと感じたら、すぐに医療機関を受診する。当たり前だが、この行為が自分の生命を守る最善の手であることを常に肝に銘じておくべきだろう。

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記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。