マツダは2010年10月の「SKYACTIV」発表のときから、原理原則に基づいた新車開発に大きく舵を切った。SKYACTIVと名乗る次世代技術は、まずガソリンエンジンで導入され、以後はディーゼルエンジンやトランスミッション、車体、シャシー開発においても導入が図られた。また、その技術を適正価格で実用化し市販するため、モノづくり革新として工場での生産方式まで改革を行ってきた。
SKYACTIVの中でも象徴的なのは、ガソリンエンジンの高効率化へ向けた取り組みである。エンジン効率の基本である圧縮比に注目し、これを従来以上に高めることで高効率化を進めた。それにより、ドイツを発端とする、小排気量エンジンに過給機を装備して低燃費と高出力を両立させるダウンサイジングに対抗し、自然吸気エンジンのまま、低燃費と高出力を両立する道を歩んできた。なおかつそれを、レギュラーガソリンで達成している。
低燃費・高出力の実現へ何を重視するか
ダウンサイジング過給エンジンとは、まず排気量を小さくすることで燃料消費を下げ、不足する出力は過給で補うという手法だ。したがって、過給器が作動するまでは小排気量エンジンの出力しか得られず、結果、運転者は余計にアクセルペダルを踏むことになり、実用域での燃費との間で開きが生じる傾向にある。また欧州は、国内よりガソリンのオクタン価が高いため、日本で使用するにはプレミアムガソリンを給油する必要がある。
一方、マツダが取り組んでいる、自然吸気エンジンでありながら根本的な圧縮比を高める方式は、十分な排気量を備えているため、運転者がアクセルペダルを踏み始めたところから適切な力が発生し、必要以上にペダルを踏み込ませないようにする。その上で、エンジン自体の効率の高さにより低燃費を実現する。したがって、実用燃費との差が少ないというのが、マツダ独自の燃費計測結果からも明らかにされている。
低燃費と高出力の両立において、何を優先するかという発想の違いがそこにある。そしてマツダは、エンジンそのものの高効率化に重心を置き、カタログ諸元での数値競争ではなく、実用性能に重きを置いた新車開発を続けている。なおかつ、より安価なレギュラーガソリンでの利用にこだわる。ただし、カタログなどでの表面に出る数値の比較が難しいため、営業政策上はなかなか強みを消費者に示しにくい面があった。
そこに現れたのが、WLTCである。