蜷川さんに世界を見せてもらった
――芸能事務所であるホリプロさんですが、様々な作品も世に送り出されています。ホリプロさんにとっての演劇とは、どういう位置付けなんでしょうか?
もともとは、タレントの売り出し方ありきで、『ピーターパン』というミュージカルからスタートしました。僕の父になりますけど、先代が榊原郁恵をどう売り出すかと考えていたときに、『ピーターパン』のフライングを見て「これだ」と思って持ってきました。
そこから色々なことをやり続けていた中で蜷川幸雄さんに出会い、世界を見せてもらったことは大きかったですね。「あ、世界でやれるんだ」という展望を示してもらいました。
我々のようにタレントを売り込む側ですと、やはり相手の「この人が欲しい」という都合に合わせるしかありません。でも、自社製作の映画や舞台なら、自分たちもリスクをとって自由にできます。視聴率を気にしなくていいし、チケットが売れればいい。やったらやっただけお金が入ってくるし、やれなかったら会社が傾くということの連続で、最高のものを作るために邁進しています。
また、「ひょっとしたらこれで世界に出られるかもしれない」という、淡い期待もあります。遊んでいてもロイヤリティで暮らせるようになりたいな、とかね(笑)。人は無限に働き続けられるわけではないし、今は働き方改革も行っている中、できるだけ利益を上げなければいけないので、やはり権利の話になりますね。
昔はCDがありましたが、その市場もシュリンクし始めています。うちもロイヤリティを払って外国の作品をやらせてもらっていますが、逆に日本の作品を外国で上演してもらえれば、お金が入ってくる。公共の電波であるテレビではできないけど、演劇ならうちでも、という夢があります。
外国の演劇界の人とだんだん関係もできてきましたが、人間関係を作るのは1年や2年じゃできないですし、20年~30年かかります。いずれ後輩たちが、我々が作った土台で新しいものを作ってロイヤリティで稼いでくれれば、と思いますね。『デスノート THE MUSICAL』なんて、まさにそのために作りました。
――『デスノートTHE MUSICAL』もびっくりしました。日本だけでなく、世界に通じそうな布陣でしたよね。
『デスノート THE MUSICAL』は(作曲の)フランク・ワイルドホーンとの付き合いの中で生まれましたが、日本のお客さんは日本人の作ったものを軽視する傾向があるので、それを打破する狙いがありました。日本の作曲家でも、やればできる人もたくさんいるんだと思うんですよ。でもオリジナルを作るチャンスがない。何か一つビッグヒットが出て、ここの感覚を変えないと、とは思いますね。
子役の成果を、2時間ちょっとで見ることができる
――それでは、最後に作品についてメッセージをいただければ。
とにかく、『ビリー・エリオット』のチケットを買ってください(笑)。初日が開くまで様子見をして、チケットがなくなっても知りませんよ、と思います。
熱も込めているし、お金もかけているし、1年以上子役のオーディションも行っています。いずれメイキングを見ていただく機会もあると思いますが、タップダンスなんか全然できなかった子が、今やもう何年もやってるように踊っているんです。その成果を、たった2時間ちょっとの中で見ることができますから。
今回うまくいって、もし再演するとしても、どんなに頑張っても3年はかかります。この子たちがビリーをやるのは今回が最初で最後ですし、次はまたゼロからオーディションをするので、一生に1回会えるかどうかの機会なんです。
本当に、頑張っても4年後やるかやらないかも決められないし、こんなに大変だったらやらないかもしれない。今も、心の半分はやらない方に傾いています(笑)。4カ月が終わってから、ゆっくり考えようと思っていますので、ぜひこの機会を逃さないで下さい。
『ビリー・エリオット』
1984年の英国。炭鉱不況に喘ぐ北部の町ダラムでは、労働者たちの間で時のサッチャー政権に対する不満が高まり、不穏な空気が流れていた。数年前に母を亡くしたビリーは、炭鉱で働く父と兄、祖母と先行きの見えない毎日を送っていたが、偶然彼に可能性を見出したウィルキンソン先生の勧めにより、戸惑いながらも名門ロイヤル・バレエ・スクールの受験を目指して歩み始めるようになる。息子を強い男に育てたいと願っていた父や兄は強く反対したが、11歳の少年の姿は、いつしか周囲の人々の心に変化を与え……。
東京公演はTBS赤坂ACTシアターにて7月25日~10月1日(プレビュー公演:7月19日~23日)。大阪公演は梅田芸術劇場 メインホールにて10月15日~11月4日。