見透かされたスタッフの残酷さ
しかし、視聴者の反応は必ずしも良いとは言えない。すでに月収のトークは聞き慣れているだけに、ネット上の反応を見ても「またお金の話か」「何で今さら」という声が散見される。視聴者にとっては、タレントの月収公表は当たり前であり、「タレントなら、それくらいは言うでしょ」と思っているのだ。だから高額でもさほど驚かないし、あっさり許容してしまう。
それどころか、「お金の話が多すぎる」と制作サイドの安直さに辟易する人も少なくない。現在の視聴者は、「一発屋タレントの明暗を見せよう」というスタッフの残酷さに気づいている。だから、「過去の栄光と現在の苦境を比べて楽しんでもらおう」という狙いがスルーされはじめているのではないか。
月収の話で視聴者が冷める原因はもう1つある。それは、本当に月収を知りたい旬のタレントが「まだ入ってきていない」などと発言すると、視聴者側からは、好感度ダウンを避けてごまかしているように見えてしまうこと。これにより、まるで「売れなくなったときの切り札にしよう」と考えているかのように捉えられてしまうのだ。
スタッフはいまだに、タレントを「大金を得られる夢のある仕事」であり、「少なくとも視聴者はそう感じているだろう」と思っている。ところが、ブログ、SNS、ネットニュースなどでタレントのプライベートを知る機会が増えた昨今、視聴者たちはそれほど「夢のある仕事」とは思っていない。この両者の意識差は、スタッフが思っている以上に大きい気がするのだ。
月収でなく生き様のフィーチャーに期待
とはいえ、浮き沈みの激しいタレントという仕事はギャンブルのようでもあり、その生き様は、いかにもテレビ向きのエンタテインメント。今後は、「月収だけを切り取るのではなく、人間性や人生そのものをどうフィーチャーするか」に期待したいところだ。
アキラ100%の裸芸が物議を醸しているように、テレビにおける表現の幅が狭くなっている以上、「つい月収のトークに頼りたくなる」スタッフの気持ちは理解できる。「仕事を断れない」、あるいは「目の前のお金がほしい」タレントの気持ちも理解できる。ただ、「現在の視聴者は、それで喜ぶほど甘くない」ということだけは覚えておいたほうがいいだろう。
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。