急減速で回生エネルギーを得るレーシングカー
トヨタがル・マンに出場する際のハイブリッドレーシングカー「TS050」で使われるハイブリッドシステムは、厳密には市販車「プリウス」などで使われているものとは異なり、レース専用に開発されたものだ。
エンジンは、ガソリン筒内直噴のV型6気筒で、排気量は2.4リッター。これに2つのターボチャージャーが取り付けられている。ターボチャージャーとは、排ガスを利用して圧縮機を回し、エンジンに供給する空気密度を高めて馬力を上げる装置である。
2個のモーターを装備し、前後タイヤそれぞれに駆動力をもたらすところは、市販車にも「E-Four」と呼ばれる4輪駆動があり、前輪はエンジンとモーターの両方で駆動し、後輪はモーターのみの駆動で4輪駆動を実現している。レーシングカーのTS050では、前輪がモーターのみということで前後の違いはあるが、システム概要としては通じるところがある。
モーターは、減速する際に発生する回生エネルギーをリチウムイオンバッテリーに充電し、その電力をエンジンの出力と合わせて加速で使う。この電気の使い方は市販HVと同様だが、加減速の強さが、レーシングカーでは市販車と比較にならないほど激しい。開発に携わるトヨタ・GR開発部長兼ハイブリッドプロジェクトリーダーの村田久武氏は、「時速150キロの減速を5秒でしてしまうのがレーシングカー」だと語る。
スポーツカーの加速性能を表すのに、「発進から時速100キロまで3~4秒で到達する」などとよく表現されるが、村田氏の説明は、その猛烈な加速と逆のことを減速で行っているという話である。たとえ高速道路を運転していても、これほど強い減速は、急ブレーキをかけるときでもないかぎりは起こらない。それほど激しい減速を、レーシングカーは競技中に何度も行っているのだ。
急速充電技術を量産車に応用
この市販車では考えられない激しい減速での回生が、実は量産車にも役立つと村田氏は話す。
「大きな電力を短時間でバッテリーに充電できれば、現在、EVやPHVの急速充電に30分ほどかかっていますが、それを5分で済ますことができ、ガソリンスタンドで給油するのと変わらないことになります」
一例として、三菱自動車「アウトランダーPHEV」は従来、急速充電に30分掛かっていた時間を、マイナーチェンジで25分に縮めたとする。この改良について三菱広報は、「たった5分ですが、そこには大きな技術的な進歩があります」と説明している。
バッテリーには内部抵抗というのがあって、その抵抗によって急速充電にも限界がある。だが、レースにおいて、たった5分で充電できてしまう技術が開発されれば、いずれ、市販車に応用できる可能性が生まれる。そのような技術的挑戦が、HVでル・マンに出場する意義に秘められてもいるのである。